松田ひろむ自己紹介

new! 千日千句(全作品)

現代俳句協会・IT部長
 鴎座俳句会代表
 雄山閣『新版・俳句歳時記』編纂進行担当

句集『黄梅』(道標発行所)、『飛景』(本阿弥書店)
1938年(昭和13年8月)高知県生まれ
受賞 新俳句人連盟賞・新俳句人連盟第1回雑草賞、道標同人賞他


 
千日千句抄  松田ひろむ近詠

2001年10月 目高ぱっと潮入の池もう濁し
鰡か鯊か佃堀暑の顔寄せて
生涯父になれぬ幸せ蚯蚓鳴く
じゃんけんで三歩の遊び葉月尽
やいと灸花盛りを佃堀にして
鴎座は白鳥座より露けしや
青北風や鏡よりひと女立ちあがり
サンドバッグあり少年とねこじゃらし
いまの青年うつむいてばかり夜の桃
2001年9月 合歓咲いてどこからが空楸邨忌
夏帽子は歳月負わず皺みいる
真昼より真昼へ揚羽蝶その他
亀鳴くを待つ青竹を踏みながら
「忍び難きを忍び」百年後の夏雲
藁しべの藁しべのまま朝曇り
名の梅つぶす湯割り焼酎にて男女
八月の爪半月を大切に
明治より昭和が遠く鷹の爪
2001年8月 新しき星座鴎座梅雨晴るる
泰山木咲く牛乳をよく噛んで
志野雑器緑茶六月空潤め
これからの男の操髪洗う
梅雨にいる北方謙三と好きな酒と
いくたび逢う枇杷青実も面の佃島
缶ビールの遠きまなざし額咲いて
梅雨淡し大手町その地下伝い
句帳一冊ひとの死へ梅雨留まらず
風は風青葉のように配るビラ
蝿叩自句自解などいたましき
母の日の妻の日となる初鰹
第一波第二波海猫の風薫る
太穂その語のくちなしの花清潔に
もんじゃ通り果てて青柳一丁目
二十歳髪染め何国語とも冷房に
鬼灯市子規に恋の句あればなあ
昼顔が好きな男で聖橋
おもかげの扇子をひらく夜の蟻
2001年3月  三歳のくすくす薔薇の芽と棘と
 「常住漂泊」末黒の薄見てしまう
 菱餅や幼なことばはなにことば
 一粒のチョコいただく日雀どち
 春寒の指をほぐすにキーボード
 二人静家系図はただ「女」にて
 春立つとまぼろしの子へメール打つ
 多喜二忌のバッグの肩のやや斜め
 ささくれしこともあらむに春の星
 春の風邪春の雨粒似たるかな
2000年6月  たらの芽とんとん馬方宿の当主にて
 一村の干しものあふれ鯉幟
 燕の巣生きる声とは溢れつつ
 立ち飲みのネクタイ解かず燕の巣
 枇杷青実八丁堀に定食屋
 三十路近きは汗と午後九時窓鏡
 朝風呂の慣い薫風色溶かし
 あいみたがいの揉んでばかりの春の鯉
 奪衣婆の大口えごの花盛り
 母の日やがまんの鬼の胸知らず

2000年5月   伊賀上野―奈良へ
 しとみ戸明りゆっくり芭蕉が白梅が
 身のうちへ蓑虫庵のみずきの芽
 水鶏笛きっと芭蕉を呼び寄せる
 土芳来て寿貞尼が来て牡丹の芽
 桃青の恋のいろはに水鶏笛
 かなめの実有髪の尼のほの齢
 奈良まちへ曲る齢の春の猫
 しゃくなげ太芽十二神将躍るかな
2000年1月  初日の出蓬髪一人にてあらず
 初御空真顔の猫をふところに
 ミレニアム明ける百薬の長と父
 桂の木秋の日輪がらんどう
 「天声」は使いやすくて隼人瓜
 風凍空TAROピエタは立ち上がる
 破れ芭蕉未完の男手をひろげ
 東海の藷の葉つんと雨後かの後
千日千句全作品
2001年
2000年
1999年
1998年
1997年
1996年
1995年
1994年
1993年

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千日千句全作品
2001年
-9月まで
曇りつも初日太平洋激し
鶏だけの騒ぎ元日大漁旗
おはじきと金平糖と初日影
雪形や出戻りのそのいちにちに
伊達郡霊山(りょうざん)という蚕村
菱餅や幼なことばはなにことば
歯で割って梅の観音芝を焼く
一月の桜にだれも近づかず
古草や指弾をあえて六十代
冬芽まだ街の桜と思われず
初雀腹空かせてはさんざめく
「原人」のすっかり消えし初御空
一粒のチョコいただく日雀どち
頭悪き日や刻み葱たっぷりと
春寒の指をほぐすにキーボード
逝くひとの二月半ばは雪消えて
肉体を離るる男春寒き
毅然の赤寒の椿とそしられて
干し葡萄のあたたかき黒今朝のパン
花八ツ手減塩醤油ためらわず
辛口の酒の口中雪催
かみしめて潤目鰯(うるめ)男の日々迅き
秘仏とは牡蠣のなかにて縄のれん
荒川の沖へ響きて石蕗の花
熟柿熟考堪忍の緒を切る切らぬ
胸中は妻ののみか否寒牡丹
秩父より寒き河来し犬走る
湯たんぽの凸凹を掌に新世紀
あかぎれてペンション夫婦三代目
守武の忌は露けくて鳩すずめ
普羅の忌や峻厳の語はすでにもう
傘差さず横浜(はま)の雨粒林火の忌
二人静家系図はただ「女」にて
立春大吉ひたすらのキーボード
雪残る妻恋坂の信号機
寒明けや高校生の膝小僧
春立つとまぼろしの子へメール打つ
肥満のみ悩む齢の零余子飯
菱餅のもう街のいろ太穂忌へ
春月のどこにも触れず板橋区
多喜二より生れて築地の冬桜
女身ふれず幼なの頬や薄紅梅
大蔵省消えて末黒の芒かな
寒鴉鳴く財務大臣のっぺらぼう
しゃくなげの太芽大川揺れどおし
春北風太穂をいえばあたたかし
多喜二忌のバッグの肩のやや斜め
四捨五入すれば百歳鳥雲に
太穂似の瞳とその強き顎冬桜
薄氷や太穂の墓に酒酌むも
少年の髭の禍ごと春北風
春風におくれ朱色の地蔵幟
とんがらし地蔵に抱かれ梅白き
梅一輪とんがらし地蔵肌白き
腹・腰のまるまる春の猫とだれ
ささくれしこともあらむに春の星
指折ってあれからの日々冬桜
春の風邪春の雨粒似たるかな
こばるとの空連翹の延びきって
即身成仏説く満月の御坊かな
腹中に男を熱く山葵かな
江青の青工人帽のごと春寒き
ふところを深く大川桜まだ
コンドルのつづき薄氷黄金郷(エルドラド)
白息のいいひとでいし午前中
やわらかきいのちのねこの春となる
湯のなかの魔羅や牡丹の句のごとく
みところを攻めて恋猫笑わるる
握ればこぼれ花鳥諷詠ちるさくら
よく噛んで平明清新さくら咲く
大川むくげ叱らるる夢せんせいで
絹雲の動かぬこともみな動く
良寛の「愛語」の細さ桜鯛
明仁の笑みや末黒の芒かな
裕仁は笑まず末黒の芒かな
街騒に身を入れうぶな桜の木
体温を春の欅に移しゆく
得恋は演歌になくて桜二分
ゆきやなぎ氾濫原に棲みつけば
その墓花を添うるや春の鳥
たんぽぽいろの点心の夕もうすこし
純白を恥じあるときは花辛夷
春はあけぼのうすむらさきの雲放つ
大きめの瞳「紅梅小学校」
花曇りヒマラヤ杉のゆるく立つ
父の耳母の眼がわれ春疾風
吐く息の機関車が消え薺原
春北風路端にしゃがむ少女かな
若桜衆道のように愛でている
初花のいのちのあとの雨を聞く
花冷えのコート軽きは三十代
前傾のおとこますぐな花の雨
蕗味噌と茶漬と妻のたつる音
髪薄くなりしそのあと鳥曇
白すぎるさくら税務署ややななめ
花吹雪自動ドアーのなかにかな
満開の花の深みに文庫本
諸葛菜五歳の瞳現わるる
連翹前線少年の肩触れてゆく
分別のスチール・アルミ潅仏会
ゴム風船の色自転車の前後の子
長すぎる信号の赤樹々芽吹く
かたつむり詩を成すために指を折りて
前抱きの嬰ほほえみは花水木
風車一つが廻りみな廻る
どこからの飛花七十路は手をつなぐ
脚長き世代ことさら春ジャンバー
手のなかに軽き放生彼岸河豚
放生ふぐくすぐったいぞおかしいぞ
河豚放つこわごわ放つ鉦の音
叱らるる夢はせんせい木槿咲く
霾や百年後に知己を得て
えご咲くと築地川跡太穂の歩
くちびるの甘き記憶は榠櫨咲く
林檎咲く一本築地居留地後
山吹の一重のことば重なる言葉
房州に山の集まる潅仏会
つきじ田村壱萬円也ふぐ供養
花水木好き近づいて人の形(なり)
くどすぎる一句つつじの濃むらさき
鳥曇り男女の櫛を斜交いに
こでまりは団地の林赤子泣く
一太郎生れ菜の花のスケルツォ
惜命の青蛙またひきがえる
築地川跡生後五年の花林檎
夏帽のジーパン大の六十路過ぐ
鍵束と腕輪鳴ることげんげん田
車椅子ひとり欅の繁みにて
セブンイレブン新茶「なごみ」も缶のこと
猫といし煙草火空の初夏へ出て
追分や十四五歩なる田水張る
早苗田に土佐の荒ら雨婚に帰る
雪残る浅間山(あさま)の胸の大きさに
しのおいわけ西洋たんぽぽ飛んでいる
手をつなぐ神と小諸のレタス畑
八十歳を過ぎて信濃の真葛原
頬高き龍馬の骨を青あらし
出過ぎたる杭にあまたのつくしんぼ
春欅抱くよひとの血移しゆく
春の鳶染井村にもビル畳み
強かりし日曜市の春の雨
蚕豆の花に出遭える今日の運
一族の福耳ばかり蓬摘む
お下げ髪庚申ばらのよく揺れて
風に呼ぶ青芭蕉その蕎麦処
たらたらとゆめのつづきへ百千鳥
恋メール打つ荒川の薮蚊打つ
労働の指太逝きし梅雨へ梅雨へ
羅漢槙の咲くということ湾の神
かうかうとかもめの素顔雨五月
生きていて体臭葬りいて緑雨
漢(おとこ)あり手擦れ句帳へ夏あけぼの
働きし手のまま逝きし梅雨に入る
さみだるる少女の声と逝きしひと
泰山木咲く牛乳をよく噛んで
汗ばむ掌放置自転車かく並ぶ
志野雑器緑茶六月空潤め
平成の男のピアス馬酔木咲く
昼顔の妻よ痩せるとなんのお茶
これからの男の操髪洗う
おんなよりおとこが清し雨蛙
大正の終り白雨の母の恋
梅雨にいる北方謙三と好きな酒と
いくたび逢う枇杷青実面(も)の佃島
缶ビールの遠きまなざし額咲いて
雨粒と雨粒汗し六地蔵
梅雨淡し大手町その地下伝い
津軽野のおんな巣燕軒深き
句帳一冊ひとの死へ梅雨留まらず
風は風青葉のように配るビラ
蝿叩自句自解などいたましき
母の日の妻の日となる初鰹
第一波第二波海猫(ごめ)の風薫る
太穂その語のくちなしの花清潔に
もんじゃ通り果てて青柳一丁目
迅きこと月島路地の黒揚羽
冷し酒志野白釉に紅さして
おもかげの扇子ひらく夜の蟻
桔梗咲く青墨という妹(いも)のいろ
二十歳髪染め何国語とも冷房に
月末の金策へ汗詩魂とて
鬼灯市や子規に恋の句あればなあ
薄闇や季語に残れる絵踏とて
昼顔が好きな男で聖橋
今生や雪柳とて花曇り
新しき星座鴎座梅雨晴るる
筍のずんぐり妻の胴になる
おもうほどおもいひかりの水芭蕉
ビル灯だだちゃ豆には産毛かな
合歓咲いてどこからが空楸邨忌
言葉香るよマスクメロンをすくいつつ
泳げないUFO博士夏雲に
とうもろこし区民のために丈揃う
天頂に繁りの絶えし暑さかな
交じりあう炎天の道草いろいろ
冷し酒太洋という居酒屋の
胸中へさざなみの空楸邨忌
鴎座のさざなみ立ちぬ夏の空
いちにちを生きて太穂の夏までも
汗甘し男に胸乳あることも
珊瑚樹の房の青実の刻にいし
目高ぱっと潮入の池もう濁し
溶けず溶かるる両国の空さるすべり
道祖神代田さざなみ湖にまで
胸中に落ち炎日のひとかけら
葬のあとの苺フラッペあまさずに
青葉どきどき骨太は兜太の字
競馬新聞男の指輪暑に光り
わが柩容れてかぶさる青葉山
父死なば部屋広くなる夏の暮
手足確かめかはたれどきは大汗で
塩振りて丸顔茄子と別れけり
少年の腐爛はじまる夏座敷
こつんころん触れて氷とバーボンと
馬氏来るたそがれどきに海霧連れて
石をもて釘打つ儀式父子草
翁にて候(そろ)紅椿抱きながら
ときどきは滝の嗚咽の虹を上ぐ
柞山CANコーヒーの外暗く
夕焼ける大地アラビアを糊という
「改革」の言霊にくる八月忌
メビウスの輪を渡りつつ天の河
亀鳴くを待つ青竹を踏みながら
八月の爪半月を大切に
夏帽子は歳月負わず皺みいる
祖母遺影こらえても汗こぼしたる
喫煙派ゆえの名句や夏の夢
鏡より女(ひと)立ち現るる青嵐
囀りや輪ゴムを銃とする遊び
「忍び難きを忍び」百年後の夏雲
囀りや地に電柱を挿し入るる
真昼より真昼へ揚羽蝶その他
メル友の齢を知らず鰯雲
からだより釦をこぼす夏欅
紙芝居屋の姉で育ちし揚羽蝶
「改革」を説き夏蕨ぽっきりと
夕顔を指し宝石を知らぬ指
きみよりも昼顔の揺れ確かめる
藁しべの藁しべのまま朝曇り
梅雨の蝶家紋にするは姉の葬
子守唄乾く葉月を前抱きに
はきはきしないコスモスの性だから
真砂女ほど崩るることも卯波かな
逢う魔が刻は酒を冷して味噌胡瓜
初表打越て来る夏岬
母よりも確かに梅雨の醤油差
ざくろ食う精子一億分の一のわれ
ふわふわの子をふわふわと夏の雲
明けやすき蕎麦殻枕母の恋
叩かれて男目覚むる潅仏会
声殺す祖父一匹の蚊のために
大西日鉄の匂いは踏切に
名の梅つぶす湯割り焼酎にて男女
明治より昭和が遠く鷹の爪
隼人瓜婆の応対ふわふわと
脳のみの献体はなし青岬
単帯長男にして姉知らず
鰡か鯊か佃堀暑の顔寄せて
佃大橋渡る時間を青あらし
八月某日デリックの朱の大川に
一堂に犬猫詰めて潅仏会
決断のその新緑の日本地図
口吸えばなに子杉菜の森のうち
連翹は驚きやすき子盗り唄
一駅を歩く夏空倒れ来る
東京に荒川がある雲の峰
蕪村忌へ鐘打つ遊びごころにて
新緑や血を差し出すに腕差し出す
水は湯に湯は渾身の花曇り
広島に妻を囲いし夏の風
思うほど蕗いろとなる蕗を煮る
唐黍の二本のために湯が滾る
六十二歳の胸鳴らすため吾亦紅
2000年 またたびの実のうきうきは奥武蔵
好きなこに通草の秘密教えます
ミレニアム明ける百薬の長と父と
初御空真顔の猫とたちどまる
初日の出蓬髪一人にてあらず
八十歳の土佐のはちきん柳箸
文旦のいびつのままの米寿かな
それでいいそのままがいい黄水仙
母の愚痴より八十路寿ぐ寒椿
蕎麦がらの枕愛しき三日かな
文旦に指入れて雨ふるさとに
大鵬手形にだれも手当てて寒椿
少女とて筋肉が肩日脚延ぶ
子がなくて乳母車見る雪催
夢道語ると大きな笑顔寒の酒
闘志とは森の悲しみ蕗のとう
雑(あら)草の風をあつめし春隣
弁慶草沸々の日は立ち上がる
種茄子といわるることも一揆村
暗澹の夜へ紅梅の一花二花
春のビール細やか別れなどいうな
ヤマンバという唇なんど春立ちぬ
佃煮屋三軒梅のちらりちら
寒明ける厚底靴の足音と
初午の佃二丁目風ざらし
春寒むや酒一合の酔いをして
多喜二その切手のぬくみ忌にいたる
孔子より一茶の旅や梅二月
白梅のみそらへ佃島ビルの
膳所というやさしき道や義仲忌
枇杷の花太穂の道の線路沿い
先生の道枇杷秘め咲きし線路沿い
春西風猫いる一トン不発弾
手押しポンプ生き葉牡丹を深めたる
掌にも来よわれらに咲いて冬鴎
水仙並ぶヒバク死一人増えている
イエスにあらず売られて黒き鉄の塊
廃エンジンの心音ビキニ忌へ近し
蕗味噌と酒やこんなに笑いあい
点々の眉・眼・口にて貝雛
百合鴎春のはじめを乱れつつ
踊り子は小百合か百恵か春西風
春西風小百合百恵の伊豆を指す
黄梅の花の乱調宮司とて
さざなみの空や少女の枝垂れ梅
大川やはるのはじめの百合鴎
天上に天女亀鳴く地の暗さ
責任の持てぬ顔持ち欅の芽
じだらくに主義者夢二や花粉症
亀鳴いてみなしごわれの脹れ瞼
さくらまだ固芽ひとり子遊ばす子
「なかよくね競え」太穂その語を枇杷花後
「なかよくねなかよく競え」枇杷花後
「なかよくねなかよく学べ」欅の芽
むくろもう眼鏡を横にあたたかき
その影の震災記念碑銀杏の芽
父の眼差し太穂逝きし日梅その後
雛の日来る太穂先生逝きし穴
その言葉音叉の春のふところに
欅三月死へ行く屏風ケ浦の駅
師のむくろ枇杷の花後をわらわらと
百合鴎師のことばかり春の風
この椅子に太穂在りし日鴨と鳩
この椅子に在りし煙草火鴨と鳩
ピザ薄きを春とし骸に会いしあと
ピザ薄き春とも遺顔に会い得たる
在さず眼差し大川いつのほとけの座
枯草車押す夢二絵のその女
山雀・日雀主義者夢二の消えし館
帯ゆるく夢二と彦乃さえずりに
雪残る湯町真っ赤な婆が坂
しとみ戸明りゆっくり芭蕉が白梅が
身のうちへ蓑虫庵のみずきの芽
水鶏笛きっと芭蕉を呼び寄せる
鎮宅破魔矢芭蕉生家の壁と化し
奈良まちへ曲る齢の春の猫
しゃくなげ太芽十二神将躍るかな
山茱萸や室生寺やわら反り身にて
土芳来て寿貞尼が来て牡丹の芽
桃青の恋のいろはに水鶏笛
弥生某日芭蕉を訪うに魚板打つ
かなめの実有髪の尼のほの齢
芭蕉さま馬酔木のいろの産声に
人里(へんぼり)は不思議ぽかんと梅林
馬の道あぶらちゃん咲くさきざきの
?の芽や馬方宿の祖のことに
孫よりも檜原の婆かたくり咲く
垣とおし藁屋の上にまだ一軒
東一華は檜原村の日のすきま
時坂(とっさか)は息継ぎどおしついと雉子
?の芽とんとん馬方宿の当主にて
佃二丁目にほんたんぽぽみーつけた
青から蒼へいぬふぐり咲く太穂以後
鴬となじみの水車ひびきあう
一村の干しものあふれ鯉幟
溢れつつ水車の悩みけまん草
吊り忍ほの白き顔わがことに
句友とて妻ほどの熱葱坊主
多少とも山吹のいろ日と揺れつ
猫の餌に骨あることも春惜しむ
折りしまま女雛や男雛これからは
ひとりづつ口に含めば花蘇芳
ものひとつとてぽっかりと四月尽
腕のなか妻よりみどりみどりの日
口緩む大山口の笹鳴きに
まとまらぬ太穂語録と葱の花
後の闇柔らかき語を蜆蝶
つくしんぼ一寸二寸沖正子
春の星冷酒の雫こそあれば
春の雷道みなななめ走る子に
燕の巣生きる声とは溢れつつ
春蘭や我には聞こえ妻吐息
湖よりも湾のみどりに海女の腰
立ち飲みのネクタイ解かず燕の巣
枇杷青実八丁堀に定食屋
「神の国」の介護のランク走り梅雨
三十路近きは汗と午後九時窓鏡
道つつじベットタウンへ男の歩
朝風呂の慣い薫風色溶かし
生きること散ること大山蓮華とて
あいみたがいの揉んでばかりの春の鯉
奪衣婆の大口えごの花盛り
母の日やがまんの鬼の胸知らず
カラー紙面の「赤旗」ひと女と富士みどり
流し目の七つと八つカルミア咲く
細足の細腕なぜに青あらし
亀鳴く世ありなし「神の国」どこに
黒南風や有珠山(うす)噴くこともさかえの忌
葉桜へ耳を大きくしていたり
朝の牛乳しもつけ咲くに妻在らず
老い方の巧拙白雨緑雨かな
やわらかに米研ぐ男夏の暮
工住に立葵ありプレス音
一茶全集重きへ緑雨明りかな
せつせつの手話よ女の雨繁る
山吹の花の放蕩晴つづく
鴬へ一歩母より二歩離れ
額の花一茶江戸居の棒一つ
佃島の太穂ここ座し缶ビール
猫の恋おとこそろそろ焔(ほむら)なる
山姥の迷いしときの蓴(ぬなわ)かな
もろともに大夕焼と大欅
いつまでも津軽のなまり桐の花
一石路の忌へ銀シャリのあつあつも
尻青きこと比喩ならず安メロン
土佐っぽの壮語と真夜の虎魚(おこぜ)揚げ
辰之助白面白雨丸眼鏡
鈴木節子は何人もいるゆすらうめ
小料理「一喜」に一憂なくて青壬生菜
口中ふわり蛍烏賊また純米酒
「土佐鶴」酔いし辣韮酢味噌後ひきし
浅葱の辛みしたたり牛たたき
住民の党語りつ焼きおにぎり夏へ
ポケットの秘密はつねに青浅間
蚕飼妻余呉のそのまた常夜灯
牛タンとレタスの味も酔うほどに
素麺の彩や石橋辰之助
句会後の句会や鮎の一夜干し
剛よりも柔よきことをはたた神
草木濃みどり「交換日記」とも句を競い
眠り足らぬ日々へ俳句の暑き風
「教育勅語」生命滴ること言わず
生きることいつも眉濃く花馬酔木
「天安」や太穂のここの缶ビール
隅田川みどりへ腰細き像帽かかげ
二十二歳のぽっちりの唇つつじ咲く
たんぽぽは雑草の一子ら消えて
立葵工場プレス機音の昼
春の苺袋に透けし太穂道
烏滸の沙汰大川濁り花を見ず
吉良邸前薄墨すっと「柏餠」
吉良稲荷に隣る稲荷や花は葉に
道あじさいに影す一茶の江戸居の棒
ビオラ咲くよ車椅子より母立てよ
パンツずるるその名のぞみへ谷うつぎ
使わねば男衰う鳥曇り
在さぬ日さくら大岡川のいつ澄むに
焼きほっけ崩し崩さる五月雨るる
細足の細腕なぜに青嵐
青葉風指人形も唇ふれて
素麺の彩一本に辰之助
塗師留守の板戸あじさい彩あまし
山吹の花の放蕩晴れつづく
「神の国」「国体」の果て黒南風に
かたつむり湖の深みへ透き通る
捨てられし子猫の位置や薔薇の森
あじさいの花季師の遺影とも永き
語る語らずかの太幹の葉桜に
薄衣薄紅老いし横浜山手珈琲館
ポンチ墓など欅茂みを下りつつ
青梅雨やばらばらに本積んで寝て
漱石に悪妻われに白むくげ
蕎麦掻のふんわりと暑や夏目坂
梅雨深き樹々猫塚のなにごとの
巣箱まだ雨のつづきに投票日
あじさいは子の丈「神の国」よりも
青欅雨たっぷりは子と母と
こんなにも葱坊主晴れポスター笑む
選挙後のふくらまぬ胸昼の月
親友のなかなか出ぬ名落椿
乙女座へ近づいてくる梅雨の月
信号の最後の子犬新樹光
夕顔のしおれるころや宅急便
コミック誌腐つ歩道の青あらし
たらちねのあまりに現つ文月くる
台風三号鳶工薄きコンビニ弁
駅までの青葉ストラップとて鳴りて
駅員らの七夕笹の「愛」と「金」
一日のひかりをこぼし缶ビール
湯上りの髪薄くとも紫陽花忌
高三の夏傷多き足愛でて
子規よりも二倍を生きし腹の汗
夕顔と夕立欲しや男の子
芭蕉さまより鮮やかな今日さるすべり
赤塚の土踏んでいる梅雨明ける
八月の水たぎらせる朝の二人
黒猫をヤマトと呼びぬ夏柳
四歳の唇の大きさ巴旦杏
本所横網さるすべり花水へ出て
槐降る日やかの声白く降りつづく
朝鮮人慰霊碑太穂おもかげとて灼けて
欲望の消えつつもあり髪洗う
三つ編みや簡単服ということば
彩混じるばかりに夏の鯉睦む
ねこじゃらしひといきること匂うこと
夕立の来るたび男おんなかな
焼酎湯割りの残る一滴太穂といし
最上蕎麦隣る三歩の灸花
ジャワ更紗幾年の歩の青深む
香水を知らぬ妻にて子を知らず
色素斑愛ずとあなたは瓜揉んで
江戸切子冷し酒とて汗浮かべ
噴水のひとり遊びに一人っ子
ビール一いわずとも祝誕生日
葉桜にならび低音の受験塾
「てるくはのる」蝉の声々あふるるも
考える時間つづかずねこじゃらし
腰幅の世代ばかりに終戦忌
携帯時間昼顔の唇結びいつ
白ブラウス未来日記は布鞄
蒸す日つくづく太穂五十句胸に置く
フィトンチッド住吉さまにござるかな
吹かれつつ月命日を葉桜に
月島や石ほど重き蔓茘枝
逢魔ケ刻の街少年の汗匂う
白むくげ「酒は毅然と飲め」という
残暑残光ぶどう園また板橋区
一作家ぶどう園主で山五郎
原爆忌五十五年後に逢う男
少年期にありし匂いは鰯雲
青芒膝きっちりと五十代
十薬や母の二十歳のこめかみや
ケータイの軽さ恋ほど竹煮草
酒・句友ありて茗荷の旬の季
朝顔にはじまる一日毅然とせよ
日曜はえのころ父の乳母車
子規の忌や鬱という字はもう書けぬ
梨さくり天竜の子と諏訪の子と
新涼や真っ赤な魚に塩を振り
一片の紙来しおとこ八月来
還暦を越すじゅんさいの甘さかな
あぼりじに瞳のなかの白雨かな
アボリジニ炎と水の爽やけくて
秋暑し少年よりも老い易く
母よりも牛の体温桔梗咲く
許されて絹雲に乗る母の恋
赤銅の寺や寺町居職町
六道の闇夜や絵馬の馬肥えて
霧吹いて唐子と遊ぶ青有田
あこがれの秘しては花や古酒を酌む
画像のみの三宅島(みやけ)のいまへ鰯雲
空を指す欅の孤独サルビアは
考えてばかり路傍のねこじゃらし
牛乳パック飲み干す朝餉芙蓉咲く
噴水の小さき虹呼ぶことを子へ
コスモスの林身のほど容るるかな
邯鄲や丹沢口に夫婦窯
足腰や汚れなきことみずひきに
震災堂に溶けしあれこれ曼珠沙華
榧の実の軽重問われ都民の日
草虱付かぬ女と付くおとこ
相撲甚句の「六つむらむら」昼焼酎
蓑を着て百を安達太良藁ぼっち
庭の木の林檎の実り出羽おとこ
ミニ南瓜売り子おばちゃんそのままに
茂吉その館その後の茂吉柿
コスモスの短か茂吉に聖戦歌
山寺の階(きざはし)一歩ずつ秋日
庄内のだだちゃ豆ほど少女ほど
青ささめく大日坊の前の芹
耳染めて庄内の母あけび五個
薄紅葉即身仏の笑み深し
芒とも幣さわさわと湯殿山
山寺の秋の蚊曽良の正体は
ご神体は言えずといいつ頬紅葉
山寺へ子と母秋の蝿までも
芭蕉見えぬ秋銅鏡に映しても
実ざくろの閻魔堂前猫の列
村々の海に落ち込む秋夕焼
柞紅葉神にて湯岩縦割れに
ご神体は湯岩の割れ目薄紅葉
秋の風芭蕉の像を抱いてみる
破れ芭蕉鯉屋杉風とて歩み
安二郎碑のモノクロ明り秋惜しむ
昼ビール深川めしは味濃くて
しぐれ忌へゆかり蛙の粗き石
原節子色なき風に卓袱台に
鬼平と芭蕉は会わず虫時雨
教会へ十歩の坂や昼の虫
やわらかき言葉むくげの朝のよう
カショニール蔦の絡まる窓辺には
さざなみの欅秋の日六十代
秋の雲言葉を待つに言葉なく
悪女とは善女のことか朝紅葉
二千年紀の曇る日曜波涛秋
力石うずうず銀杏紅葉まだ
せんせいに付く子付かぬ子露葎
一歩二歩離れ山姥黄葉老樹
コスモスや母の背伸びの五尺まで
胸の奥まで十月の朝日射す
けやき散るけやきの胸を冷たくし
蓬髪の男一匹虹に立つ
鶏冠のいろは齢か初時雨
残りものの炒飯の朝神無月
句材なき日々掌中の波郷の忌
木枯しの一号よ来よ欅の胸
コスモスに右へならえはありませぬ
ゆるやかに萩の左右の友の数
一葉忌明日と知りぬ黄葉紅葉
二の酉をはずれて点り飛不動
頭の芋買わず立ち飲む濁り酒
切山椒食ぶ一葉忌その旧居
二の酉の手締めや頭の芋ごろり
濃くなってひかりをこぼす酉の市
人間の修羅を抜け来るおかめ市
近くより遠くの空の欅散る
転生や雀一月よく遊び
アフリカ系われらは桜落葉掻く
釜休め日や冬毛の猫の喉なども
佃晴れ餠搗く音の父と父
鉛筆の詩は一行ぞ冬欅
子の笑みの薄さや十二月八日来る
銀杏散るどうにも散って太穂以後
枇杷の花太穂の道にガラス散る
百合鴎少年の喉潔癖に
行く坂の木の葉隠れに年の暮
雁や赤き封書の恋尽きる
人肌の芭蕉像にて櫨紅葉
ジョギングの男女の胸と年の暮
横顔の濃淡冬日かがやきに
鴎座は白鳥よりも星月夜
散りきってはじまる明日朴落葉
雪形の代馬夜毎沢下る
干鰈人生反芻することも
菱餅やまつわることももう少し
北窓を開く妻とは別れない
三歳のくすくす薔薇の芽と棘と
赤樫の花と思わず空淡め
「常住漂泊」末黒の薄見てしまう
田にひとりまたひとり増え芦若葉
サイダーのシュワッと子供なくていい
木葉木菟のほの赤き嘴真の闇
パスワード忘れて緋鯉錦鯉
逝きしひと真菰のなかの音満ちて
分去れのこんこんの日と虎の尾と
狐の提灯この断崖(きりぎし)は曽良とたれ
酸っぱいぞ甘いぞ柑子賜わるも
1999年 門松の胸青六十歳の胸とならぶ
真面の初日と突端の礁(いくり)と
菫咲くポピー咲く元旦の妻と祖母と
妻と祖母分かたず初日お花畑
初日岩礁海猫のごと子ら散らばりて
元日のしっかり婆の花菜売り
備前なる釉は火のこと松の内
きかんきの三味や津軽や青林檎
細き音また太き音の三味津軽寒む
ポピー咲く菫咲く妻岬の妻
佃外れやちゃぼ家鴨どち冬曇る
寒潮ここの藤村・薫・惣之助
若水の井戸端があり釣り舟屋
佃二丁目枯れあじさいにまだ花が
さわび擦りいる酒「一瓢」と蕎麦のため
清志句集の遠き純白涸れ町川
香の葱の高畝つづき砂と空
「町の花」野菊はまだ芽海鳴りに
「卵的の恋」眼と眼と合わす碑沖へ北風
左千夫生まれし藁屋ふっくら二月来る
砂にまみれて一月の空碑の智恵子
とげの二月のサボテンの丈智恵子どこ
ほの落椿「文さんへ」竜之介恋文碑
一服献上枯松葉敷く愛の碑へ
潮騒のうつつ千鳥の恋の醒め
浪を追う千鳥と老いと九十九里
綿入おばちゃんガラス坩堝の輝きに
ガラス吹く年期の息を春めく空
腕組んでおっぺし嬶の笑む写真
船おっぺすがモノクロ写真等身大
こぼれ鰯なんぞ踏みつつ走りつつ
冬へ腕組むフナガタ男オッペシ女
裸おとことおぺっす女鰯船
沖は冬波朝日微塵におっぺして
磯焚火黒しおっぺし終えししたたり
鰯・いわしよ網より滝のごと溢れ
この網の鰯どしゃぶり朝日とも
船霊の人形(ひとがた)が笑み傾ぐ冬
万祝(まいわい)や肉体はもう鰯の夢
浪荒しおっぺし女尖る声
九十九里の女証しの冬日焼け
鰯さま嬶さま飛沫き九十九里
猥猥と数え歌あり鰯漁
カードにて引き出す場合春北西風
鳴き声のうらやましこと恋の猫
青翁恋猫裸身と跳び跳ねて
恋猫と跳び跳ねている青翁
花粉症より二月始まる一企業
紅梅一輪体脂肪率消えて行く
春裸灯蛙やさそり串刺しに
塑像とも食みて黒牛冬ぼこり
村踊る元宵節の道の幅
武烈河あるいは凍河驢馬とゆく
春薄ら羊のために人民帽
村は邑門神の朱ずきずきと
家鴨放つ河真っ青な音のなかへ
天地を夫婦の日永驢馬と行く
水運ぶ天秤手艶紅旗下
清帝騎馬像枯原にあり馬の糞
鳥凧か鳶かアカシアだけの空
ガイド劉さん足より踊りターヤング(太秧歌)
如意湖とぞ凍り半ばはさざなみに
「避暑山荘」奥へ奥へと芽吹く柳
氷ただ子を遊ばせて日の斜め
灯さるる千手千眼とても寒む
烟雨楼は読むにまた日の凍り
ほの遠き白さ元宵だんごという
さんざし棒飴花と挿し売る男かな
寒かろに顔少年のドラ・読経
砂曼荼羅の五彩のおぼろ暗がりに
物売りの毛糸編みかけ「要不要」
長城へざらつく一歩雪残る
雪残る風残る村五色旗
長城を見ずや野焼きの夫婦にて
長城北の団子末黒野の味と
バイク前後の三人家族春塵に
金魚胡同自転車列の緋のマフラー
耕して到る地平の染卵
鳩と人と胡同游(ホートンヨウ)はすぐ曲がる
夜市三月玩具と並び「毛語録」
分かち食ぶ金柑・棗故宮北
胡同の練炭売りやそのいろの
春葎眼の歓喜仏もろともに
津軽三味線叩くものか弾くものか
山芽吹く太棹よされよされかな
どだればち津軽丸顔春薄き
路地猫のうっそりの顔沈丁花
さくら明日咲くと自転車三輪車
春めく車中ウオークマンまた文庫本
清方の女のかの世むくげの世
ビラ戸々へれんぎょう前線いまを過ぎ
さくら咲く湿りや男女つつきあい
猫はどこ犬のいちにち菜種梅雨
ちゅうりゅうと犬抱いている春のひる
眉細く剃りケータイ音卒業期
麻雀の女が座守る花の昼
こんこんと水引いてゆく稲の花
太指のけむりのように稲の花
ゆったりと溢るる川を稲の花
いもうとのむず痒き背や稲の花
口ほどの祖母の腰幅稲の花
稲の花父のかっての翼など
いぬふぐりの高低に子ら「君が代」論
馬酔木咲く「靖国の家」その佃島
吸い込まれ中学校の空さくら
河灯台水面鴎と飛花高み
靴ぐせのいつ斜めぐせ鳥曇り
さくら大川鴎とかもめ吹かれつつ
春昼に深入りしては父の恋
湯のなかの母のお臍や猫の恋
ひらがなの良寛がいる龍の玉
街のたんぽぽ女とは気づかずに
恋猫の「周辺事態」乱れ跳ぶ
たんぽぽの昼をよろこぶ時間割
さくら草自慢「ラーメンふくちゃん」で
スニーカー大きな世代つつじ咲く
選挙前線つつじ前線とどまらず
これからが本番の齢橡若葉
ふぐの顎つくづく雨の河豚供養
河岸のみな野太き声や河豚供養
大八・ターレー右往を左往河豚供養
椅子に立ち父と並ぶよ五月の眼
春の鴎もうすぐわたし抱きにくる
ピッツアのみの昼餉もっともリラ樹影
アカシアの花散るを雨老夫妻
乳母車昏れず五月の河昏るる
初夏へ坂時を畳むを石畳
眼ん玉のたしかに津軽凧あげる
撥あわすことと初夏のはじまりは
ほたるぶくろ時をたたむを石畳
少女は見ず四十歳すぎての山つつじ
言葉なくも素足の夫婦豆の花
顔黒でミニの薫風中学生
酎湯割り一滴濃くす花菜和え
佃小橋の丹の剥落を春の昼
猫嫌い楸邨は好き鉢あじさい
ペットボトルの涼しき音色「道志川」
滝音ともペットボトルを「道志川」
「周辺事態」日焼けにあらず顔黒は
青鬼灯少女の顔の濁世にて
香水濃きは周辺事態近づいて
立葵プレス機パシャを町の音
ぶつかりぬ鮎の匂いの菓子木型
葉騒街騒酔歩のいまの辰之助
渇く日の額あじさいに青女
傘寿後の師と交い鴎どち汗し
昼顔の昼やぶらんこ揺らしたる
水溢れしめ西望像は青欅
桜葉に住吉さまに無神の掌
少年期の頬の片を暑の風に
渚男の白髪を梅雨かたつむり
虹たちし天上に声虚子・蛇笏
夏呼んで竹山の手をあいや節
青時雨欅一樹を父という
絵手紙のあじさいは晴れ誰のために
草田男の広額か暑の大川沿い
肌の熱さは血の熱さとも水鶏(くいな)笛
褒貶やおのれを巻いてキャベツ畑
指折りて詩をなすことぞ蝶の昼
晩節なし猫より鴉の子のぬくき
いつまでも悩みあじさいいろをいう
六十代の流速を花沙羅双樹
藁編んでいる梅雨寒の下話
残されし梅熟れている雨つづき
馬のいぬ馬屋ときどきは青時雨
青さえていしずんだ餅屋敷神
鍋の蓋重し暑しと母者かな
竹を割るぴしりぱしりや嫁が来る
六地蔵浮き彫り顔を朴の雨
青胡桃嫁の愚痴などしりませぬ
梅雨雫竹割る音のときどきに
燻されて若夫婦とも梅雨の土間
荒梅雨の少年思うししおどし
その大いくども岩間清志と朴の花
クレーン船大川大暑照り返し
十薬咲く「うちらの地獄そば」が咲く
六月の魁夷そのいろただの山
夏という魁夷のみどりただの山
梅雨こけし瞠きている妻寝息
大川に突き当たりては花辛夷
リバータウン未婚の目高いる池を
手押しポンプ・朝顔・外車路地暮らし
梅雨明ける山川蝉夫鳴いている
夜目遠目日傘のうちの芙蓉かな
まだ見ざる繭子の繭をたなごころ
踊り子を捕らえて見れば大揚羽
あいや涼しや竹山の闇見えてきて
「トンネルなぜ」青毬栗は高尾の子
「生きていたい」といわぬ元禄山毛欅茂り
天狗呼ぶ神官の夏反対集会
デモ発つへ高尾天狗の大団扇
じじとばばばかりや峡の田水沸く
雨ざんざほたるの会のほーほたる
お山守れは暑の風天狗雷天狗
大鷹の夏見えずして滴りぬ
大鷹夏に小仏川の透く小石
素足白きことや小仏川透く小石
高尾天狗と元禄の山毛欅滴りぬ
指組みし無神のわれに原爆忌
木下闇「君が代」が落ちてくる
汗ばみし身を容るる隙古郷の忌
佃に生まれこの井戸育ち吊忍
佃祭りへ大若衆の声となる
少年の四肢まだみどり夏の雲
少年の四肢のまだまだ朝曇り
胸に咲く花火大きく草田男忌
振舞わる佃土間井戸滴滴を
やわらかき六十代のむくげ咲く
切り火受けし背丈佃の神輿衆
鉄線花の声あげぬいろ神輿くる
笛音高切る江戸里神楽涼し涼し
一太鼓二の笛三の佃びと
祭り着姉妹かけよりてまずヨーヨー釣り
扉より唐紙の涼日本人
地球儀の暑やエルニーニョ忘れたる
唐黍食ぶることを昼餉に草田男忌
のうぜんにぽかんと現るる乳母車
昼顔にしびれてしまう六十代
シベリアの鯖雲の上誕生日越え
シベリア秋雲永き誕生日永き
日焼け楽しむ老いの歩みをアドリア海
巴旦杏チンクエチェント唱えつつ
サンマリノは古の共和国サルビアサルビア
ナポレオン故事よりたわわ葡萄畑
ボンジョルノ未婚の声をライラック
コソボ対岸日焼け男女のなお日焼け
絹雲や佃大橋とて翼
相撲取り草のことごと社つい過ぎし
傷む傷まぬ線刻地蔵且つ散りぬ
お姿の線彫地蔵且つ散りぬ
三輪車のあと自転車の橋の秋
手艶いつまであるか冷房の糸車
釜山港へ逸り秋雨のジェット船
眉月というも慶州(キョンジュ)の男の子
千ウオンの焼栗十粒鍋のまま
太刀魚売るその幅の市(いち)慶州の音
唐辛子盛り売りオモニ立膝は
ロック男女の慶州普門湖(ポムンホ)花火揚げ
法酒かつ踊れば慶州秋深み
味噌(ヤンニョム)のほろり太鼓の舞剛し
おおぶりの梨(ぺ)や腰のこと船のこと
釜山港(はん)恨はトラジの根のいろに
穂ばらみの慶州(キョンジュ)棚田やすぐ尽きる
ガチと聞くかささぎのふと天馬陵
秋暑しエミレ(母)と幼な鐘の声
巫女(ムーダン)の舞の白鷺霧を呼ぶ
トラジトラジ激しきときも伽耶の琴
人面瓦新羅ほほえみとてむくげ
無窮花(ムグンファ)と呼べば暮色や慶州へ道
慶州市場の梨栗あばたチマの裾
アンニョンハセヨ園児へ桔梗青磁咲く
青磁窯ガイド秋美英(チューミヨン)とて響き
がまずみや南無釈迦牟尼と声ひいて
石窟庵花梨や尼のパジ・チョゴリ
老亀の背の爽やけしを仏国寺
農楽(ノンアク)の鐘・笛・太鼓緋を飛ばす
かささぎと歩む五六歩景福宮
無窮花咲く奥処に日本無頼の碑
景徳宮花嫁・園児・鵲(ガチ)秋暑
日本人と指され応うる日の霧に
秋曇る鋼の空を釜山港(ハン)
トラジ剥き売る母や哀歌のあるなしに
両班は食わぬ焼栗立ち食らう
巫女(ムーダン)の舞の白鷺祖のごとく
アリラン峠は冬へ巫女(ムーダン)叫び歩く
安重根(アンジュングン)は巌どこにも霧の立ち
無窮花と聞けば暮れいろオモニの眼
かささぎのあああ千年天馬陵
日は霧に玄界波高二のやさし
きびなごの刺身といえば唐津の皿
ハングルの秋より帰る鯛茶漬
短パンのまなざし中二自転車で
惚れやすき性や芒の夕映える
つぶやきの数ほど夜の熱帯魚店
掛けかばんずるる夜涼の中学生
夜光十月背丈悲しみ予備校生
臨界の青い火芒満ちて日本
鯊釣る河口すとんと三番瀬広き
人間と滅ぶ干潟を望潮(しおまねき)
なにも言わず鵜は羽根ひろげ三番瀬
小やどかりの動くよ動く沖より陽
釣糸引く秋の女と猫実川
釣りの男の誇り蟹の背透く青さ
滝の空またくちなしの実の上に
藤の実のなにげなき大奥多摩湖
椎の実と落ちて大井戸まいまいず
コスモスのささやきの紅草思堂
秋明菊はギヤマンの紅競いつつ
多摩の朝零余子(むかご)三粒を見せしひと
郁子(むべ)食うぶ多摩源流を志し
男郎花ごつんと山の鐘叩く
はまごうの咲いてほろほろ磯伝い
ひらがなの恋むらさきを松虫草
九年母と遊び幼なの国境
五倍子や何代前は歯を染めし
またたびの熟るるを測り多摩のひと
めはじきの連れだって咲き多摩御岳(みたけ)
藤袴悪童ごろの清盛に
みぞはぎの明るさ少し酒蔵裏
奥多摩のためいきの空吾亦紅
唇厚き多摩の女生徒おんこの実
墓を負い杉林実の青梅線
酒ちょこの沢蟹の紋青武蔵
がっくりと薊の首の折れていし
芙蓉枯れ実軽しよ多摩の横日差し
無人駅ホームにあふれほととぎす
冷めていしひろむぼっちの通草の実
干しいちじくの口中甘くない甘い
沢蟹の眼を燃やしつも六十歳
みっつとせ見目よきものに隼人瓜
一滴の秋冷の酒焼きほっけ
鯵開き一枚の朝妻定年後
何シーベルトえのころの空青い空
白山茶花古木も呱々の細流れ
遠くより母の腰つき隼人瓜
絹雲の出てすぐ茜奥武蔵
だれにでも好きですと付くいのこずち
生涯を風と遊びし山芒
夫婦です白鳥の首ゆらゆらも
白鳥は白鳥鴨に急く瀬音
おたがいに豚汁の腹山の句会
父の眼の玉葱の芽を古墳村
翔べよ白鳥翔べよ俳人群れていて
鳶二郎三郎が空枯れて桑
奥武蔵とて広き原いのこずち
白鳥を山と思いしかいつぶり
鴨は流れつ白鳥は恋の嘴触るる
ケータイ軽し欅黄葉のたっぷりと
やや大きぐいのみ黄瀬戸時雨忌へ
俎板の傷の細かさ鳥渡る
木枯し一号セーラー服の白線に
可燃ごみにはあらず銀杏の紅葉吹かれ
桂の木秋の日輪がらんどう
天声は使いやすくて隼人瓜
TARO千手歓喜梵鐘突く寒さ
半券の黄と黒TARO冬館
風凍空TAROピエタは立ち上がる
破れ芭蕉未完の男手をひろげ
東海の藷の葉つんと雨後かの後
「定説」と「天声」の世の破れ芭蕉
東海の藷の葉ほうと雨後かの後
初日まで一直線を笹目橋
風評の日本藷蔓どこへでも
青ざめて被曝秋空甘藷の村
九月三十日誰が記念日の欅散る
「未だ判らない」被曝ラーメン屋のおやじ
見えない見える臨界の村冬毛猫
藷の村原子力の村冬菜噛む
藷突いて突いて東海被曝の日
判らない臨界後の村冬欅
判らない臨界の意味犬と落葉
撃たれつづけて被曝の頭冬欅
核業火より藷を煮る竈の火
海見える十字架の墓落葉焚
花文字の墓いつまでも冬の湾
元町へ言葉なき坂桐冬芽
考える人と考え欅散る
悲しみも怒りも一枝づつ冬空
空という一枚のもの寒欅
ひとのいちにち痛みも悩みも雪雫
男五十歳や昼の寒さにカップ麺
枸杞の実のなかへ男の眉透ける
枸杞は実に男の声の透きとおる
一歩ずつ深山明るき?子の実
1998年 電飾樹「最後の一線」古語と冷え
「現役」の母の傘寿のごまめかな
五十代の初夢最後土佐皿鉢
初刷りの我が干支虎のしっぽかな
ばあちゃんと母呼ぶ土佐の初明り
お降りや八十路を越すも繰り言の
大旦傘寿のことに染めぬ髪
一月の曇り日「ゆ党」増えしとて
屠蘇のごと夢の集まる十二人
元旦やおばあちゃん子も保父として
土工です保父です孫として二日
初売りの煮貝ふるさとしたたらす
雪晴れの街初キスの鳩その他
雪卍あちこち「黄昏症候群」
初音町母雪掻くに鴉・鳩
身の丈に沿い東京の雪女
老いらくの雪片ことに眉濡らす
神田川の色の濁世や雪吸う量
頬染めし力士が二三雪の駅
冬欅術後三月の肌艶や
雪さりさり踏むこころざし志
地ビール三種の味の濃淡雪止まず
両国地ビール三種の味や雪止まず
葉牡丹へ歩を詰め離れ恋ごころ
久女忌の心残りに雪蛍
ルーズソックス路肩雪塊日々汚れ
雪晴れの瑠璃いろしずく階ごとに
雪催赤いコートの歩幅にて
歯・眼衰う雪いちにちの東京に
や・かな・けり雪と育ちつ雪欅
贅肉なきナースの言葉冬木の芽
草城忌明け方に得し一句かな
銀シャリは遠くのことば白泉忌
鳩の死へ少年ら寄り冬芽圏
学帽の青春挽歌今日の雪
猫の恋我はいやでも還暦か
立春のナースたわむれ流し目か
藤十郎かも炬燵の猫の地獄耳
還暦のいやいやながら冬椿
朴落葉大きや荒らと踏みたきも
葉桜や大岡川面ただ黒輝り
耳たぶのいろさくらいろ恋遠し
塩屋岬まだ見ぬことも虎落笛
鉛筆を削れぬ少女久女の忌
梅一輪聖路加タワー日にのぼる
恋猫と聞き恋猫のいぬ真昼
蕎麦たぐりつつ大粒や春の雨
菜種梅雨子を眠らせて母寝落つ
春の雨母守る歌の「みだれ髪」
首筋をこきこき廻す白泉忌
地下鉄の名は泉岳寺春の雷
水雪は春呼ぶことの佃島
三の午雪なぜなぜの佃衆
雪ごめに路地盆梅の今日のいろ
春吹雪く「風呂敷」の句が文頭に
水雪まじり佃小橋が好きな犬
胸までの髪紅梅の先々に
雪予報母よ背筋を伸ばしなさい
不合格の髭の薄らに雪催
帰国目鼻の姪と三月酒じんじん
富士見ゆる方富士見えず春の虹
竹足場幾重上海月おぼろ
上海の菜(サイ)ち真まみどり煮上がりぬ
駅に寝て綿入れ家族改革後
煮卵売る西瓜売る声物乞う声
老朋友張さんが来る春の月
菜花咲く孫碧野(ピーイエ)はガイドさん
朝粥の湯気やピータン・白子(シラス)ある
地平まで耕の一人の長柄鍬
水杉みどり煉瓦干し場の地平まで
杭州へ汽車発つ朝の霞より
星大き肩章車掌さんきりり春
制帽の角張る春の髪あふれ
大稲塚一重瞼の少女現れ
朧かな西湖一辺ビル現るる
西施の湖白木蓮暮れぬその白に
ただよう目白堤柳薄みどり
西湖湿りに片言芽吹く辛苦了(シンクオラ)
白木蓮の空ゆるやかに蘇堤の詩
春日湖の縹(はなだ)色また鉄紺に
龍井茶畑少年独り凧の紅
五体投地線香の炎は誰が春へ
僧黄衣インド飛来の峰芽吹く
韋駄天像へひたすらの農春めきぬ
煉瓦積む日永干し菜を売る日永
土担ぐ衣担ぐ肩春遅々と
黄梅の紹興ならば香る酒
若夫婦霞む砂利船喫水は
大禹陵六千年を咲くけまん
禹陵下農の麻雀砂糖黍噛みつ
たわむれに跳ぶ曲水も蘭亭の
王義之の「之」は鵞鳥とは竹の秋
「信可楽也」(インカラーイエ)桃の一樹の咲くことも
華鬘咲く碑や「文革」の傷のまま
酔うほどに白木蓮解かれ家鴨解かれ
周家奥処の洗濯板の石温む
魯迅生きし家泪のふいに花菜畑
運河春光魯迅幼なの机傷
馬馬虎虎(マーマーフーフー)阿Qの数のけまん咲く
かげろうや阿Qの豆のまだ堅き
噛むほどに茴香豆や立ち飲みて
紹興の甕白錆に毛・I後
みな触れる春光魯迅の像ななめ
みつまたの花の頭並べ魯迅道
紹興街路春の埃の撞球台
句帳開く西湖白木蓮たちまちに
じゅんさいの水のするする呉か越か
鶏・家鴨売らるる村のみな叫び
筍五・六並るもいて自由市場
村市場算盤黒珠冴え返る
台ごとの豆腐切り売る梅盛り
「少児優生」菜花つづきの区切らるる
凧上がる西施の空を手づかみに
上海へ春田へわれら西施号
湖沼点点草魚育つと春帽子
茶葉沈む楽しみの汽車桑芽吹く
「泥工」と座し盲流や駅春灯
湖心亭の椅子のばらばら春暗がり
茶亭の椅子春昼暗らむこともいま
春宵多謝汽笛のなかの上海語
胡弓楊琴上海離れるつつ春宵
胡弓三月古きホテルの鴎の名
曳船に春の灯の入る黄浦江
春灯のビル欧風の魔都の夢
上海駅肯徳基(ケンタッキー)あり外寝あり
史を知らず本所横網木瓜咲く日
引き潮か胸触れつ飛ぶゆりかもめ
澄む澄まぬ両国あたり芽吹く川
相聞の雨の深まる花盛り
花散らす雨高三のジーパンに
春灯ひとつづつ霧笛橋渡りおり
散り終えし芸(うん)亭の花相生に
恋のベンチ噴水に灯の入るころぞ
水木咲く五十路過ぎての恋のあと
携帯世代の身を細らせる白ブラウス
ジーパンの母子や路傍の白つつじ
釣り談義日本軽くなり四月
紅極めいて花水木残る街
布袋の腹白き石屋の花の雨
憲法の日の香佃煮坪工場
踏み処なき藤の花屑恋醒めし
大川荒れつ銀杏太きに胴吹き芽
夕顔や磔刑図下重ねる身
虹色にヴェネティアガラス五月の眼
エルベ市場の女の腕梨・花梨
恋の夕暮アディジェ夏川声高め
蔦若葉ジュリエッタ顔細き像
マルコ・ポーロ老の石段凹み富貴蘭
春灯微塵石の古城に猫出入り
石畳ポプラ種子舞う小鳩降る
湾光春光重ねピッツアは薄き音
鳩の恋胸乳合わせば汗ばむに
佳きことの夜爪を切りぬ傘雨の忌
寝たきりの八十八夜義母の咳
林檎咲く字森山の瀬音して
青春の黴ずにありぬ山の靴
墨客という語五月の墨を磨る
帆をたたむ高み六人夏ゆるる
山吹は寄りあじさいはお産女(んめ)様
*十文故事
顔深くなる素麺好きの男にて
梅雨呼ぶ雀秘仏暗みの歓喜天
五十代果つへ徹夜二夜を梅雨雫
あじさいの季鋲多き橋愛ずは
太穂先生予後の帆風の朴の花
父が押す梅雨川風の乳母車
三九歳の破滅派へ棒のごとき梅雨
つゆくさのはじらいのねこ抱きよせて
太宰忌明日へ雲の厚みの存分に
ほたるぶくろ理性ときどき青ざめぬ
梅雨寒のよこしまごころカルビ焼く
西瓜叩くと前門大街ひびくかな
天安門広場掃くいちにちの揚羽蝶
汗冷える天安門上鳩と吹かれ
青柳や石の駱駝はただ千年
長城を越えゆく霧と鳴り響く
馬と行く鍋・七輪や朝曇り
乾く六月北京へ袋抱き家族
片膝立てて象棋の木陰街騒に
アカシア花下の床屋もっとも風はらむ
胡蝶われら故宮どこまで石の輝り
北京曇り日樹上パンダの昼寝覚め
猫塚に猫犬塚の夏落葉
ビラ入れ戸々だんだん軽くなる薫風
横綱手形碑親指ことに初夏の風
才媛いま足腰勝負花かぼちゃ
俳人の足腰勝負花かぼちゃ
投票を忘れし修羅の草蘇鉄
貞女です浜昼顔に聞かずとも
かたつむりの夢京浜急行で
雨ゆえに岬へ行きし夏の月
投票へパン一片と卵にて(無季)
幸先の白木蓮を水の上
三毛猫のひろげしからだ梅雨の闇
喫泉ぬるきネクタイ解かぬ男たち
五六歩はむくげささやく河童の忌
高三の乳房の高き蕗大葉
青欅元天才は税吏顔
天上に男を送るかたつもり
手押しポンプ泉と思う猫が来る
やや頬こけしとも八月の句の数と
かたくなにこの世と汚れ立葵
祭り仕度の鉢巻潮満ちてきし
ねぶた恋しき青田列島北へ北へ
雨呼びつ青田列島徐々北へ
跳人より跳ねてじゃわめく鈴の束
ねぶた狂いや太鼓八連並び打つ
青年のかなしき背丈化け人ぶり
音色とはねぶた跳人のこぼれ鈴
夏空や縄文翡翠いずこより
八甲田丸は白、浜なすの熟るるほど
栗・小楢土器に溶けこむ夏の霧
太宰生家の夏椿一咲く高み
句碑良き苔相生の松・桜
十二湖点々イトウと住みて夏暗き
火と思う跳人じゃがらき手振り鉦
痛きほど乳房張りし夏志功仏
子ら茂りおり縄文の栗固かろに
縄文幼な墓や身ぬちに青葉騒
力草連絡船へ切れし鉄路
冷夏瞠りつ縄文手籠網目やや
妻の肌身の距離よ南部風鈴鳴るよ
瞠きて縄文手籠網目の史
賜りし夜々にぎりめし滝細音
嶺よりの朝日四葩と古りし鯉
噴き湯ぽこぼこ滝さわと果つ五十代
女手の三味や津軽の夏呼ばん
蒸す秋の日日や紙面のA氏とは
元祖「天安」昆布煮る日の鍋の順
六十路八月妻の名を呼ぶためらいに
六十路はじまる曇暑ユミさんと呼ぶ妻と
烏瓜六十歳より見えはじむ
河灯台の昼や葭切鳴く鳴かぬ
露草の一本立ちも佃堀
娘といわずいて中ジョッキに果つ五十代
なに食べ汗六十代へ一歩一歩
青六十歳頬たるみしは暑の鏡
青六十歳鏡よりなお暑のいちにち
ワイン一滴足そうアドリア海夕焼
犬と老いつ八月浜辺朝歩む
秋へ声鳩曇り声覚めミラノ
サルビア全花銃の重さの城眠る
鯊釣れて佃堀母子のほほん茶
桜青葉初恋に似て母子のキス
胡弓弾く腰構えまず風の盆
街曇暑迷彩服の少年は
箒草見える時間や六十歳
三崎漁港暑の手仕舞いに棒の雨
船腹やや錆ビーコンのまわらぬ涼
日曜画家鴎の涼を塗り終えし
女と男三崎雨傘晩夏の傘
三崎の猫と見つ台風後の波涛
雨暑し今日の鮪の値と猫と
齢五十は青ねこじゃらし自転車区
葱坊主の首筋見えて相模湾
二十歳とは腰高きことカニさぼてん
「だよね」など姪二十二は葡萄の香
ジャズ汗ばむ実用衣料品セール
ひらがなのよう越谷は茄子いため
「影を慕いて」身にあふるるよ時雨来よ
上がらぬ釣うたた運河の水澄むよ
ひぐらしのよしよし地蔵薄目かな
三浦三崎や四十歳過ぎては暑の乳房
秋の樹影わが影月日駆けてゆく
秋の樹影わが影月日追いかけて
雨つづくつづくあと秋ヘリコプター
秋になってもおとことおんな風の岬
秋の樹影わが影月日追いかけて
平ら咲いて白山茶花の中学校
河澄まぬ秋の横浜黄金町
思秋期の道ねこじゃらし風呼んで
秋空のスカーフ人をやや離れ
藻草採る広重の絵のおんなの背
かまつかは女に終りなきように
いくつになってもおんな唐黍食べる唇
貝割り菜母の役終えこれからは
椋鳥のあまた太陽衰えし
木枯らしの一号へ出て男の掌
末枯れや眼鏡の丸き女子高生
ぼろんごろんと岩鶺鴒の顔上げず
鶺鴒の足つつつつつ木の葉雨
老い知らぬ欅の素肌秋日射す
みかん出ごろや人恋いそめし少年像
むらさきしきぶ放心の枝無心の実
秋鯖の旬の一切れ北の酒
区の欅裸像の男末枯れて
いつのまに立冬か雨蓬髪か
桜紅葉ぼつぼつ老人力という
かなしくて霧のおとこの不随意筋
照るもののひとつは番い麦蜻蛉
楸邨の楸のきささげ山に雪
自在かな楸邨の「楸」きささげは
つれられて土佐弁父の寒こだま
みぞるるや作り笑顔も嫌なこと
ちゃんづけのきみは蘭よりかわいいね
ちゃんづけのきみよかまつか知りません
紅葉晴節子の節はもう止めよ
蜜柑の斑横浜生まれ秘していて
夏蜜柑谷戸を出れば不細工と
頬染めていしか化粧か冬晴るる
青六十歳寒暁いずこより来るも
寒雀朝はどこより来るものぞ
山には山の愁いや横浜の寒雀
寒椿ぼつぼつ中学校の垣根だから
なにもかも見えなくなりし寒牡丹
葉牡丹に歳月吸われゆくことぞ
白髭の歌手秋空と人濃くて
人濃くて白髭恒彦秋空へ
白髭恒彦の秋空は濃き祭りの香
今年ことに枯草匂い人匂い
仲間増えて赤旗まつり秋の空
なかなかに冷えてあなたと葉鶏頭
寒つばきはなびら着地までの空
何代目とは寒茜吾は初代
寒椿嫉心のいろの燃え尽きて
太穂初代わたしも初代寒茜
頬染めることもなかりし古酒の瓶
あなただけ見つめあけぼの杉の寒
抱きあいてパリの裸像の照葉かな
パリにいてセーヌを見ざる冬の塔
大南瓜座りたる花舗バスティーユ
枯菊の王女銅像なお瞠り
恋人たちにマロニエ落葉鳴る鳴らぬ
駅の名哲学者像マントを揺らす
パリ市民海猫と凍りつ夕日差し
声の少女牡蛎・ムール貝売る朝
メッシュ髪白口紅と緋のマフラー
魯迅(ルーシュン)と呼べば菜の花咲いていて
化粧なき母の花季故山古寺
甕開けてどこまでの春紹興酒
菜殻火に煙る一邨改革後と
上海の三度の春の灯火ガラス冷え
春へ青年線香の束振り祈る
天地玄黄土産は盥あたたかな
おぼろなる海鴎飯店星二つ
信心の人民服やかぎろいに
人民服は老い僧黄衣かぎろいに
春塵路上咥え煙草の球撞いて
韋駄天巨像へ倒地の男女春へ混む
みな触れる春光魯迅の考える像
潮満ちて晴れて餅つきおぼつかな
たわむれに餅搗く佃堀満ちて
もんじゃ焼つる子立て膝たわむれに
眉目よりも「獅子座」の男寒晴るる
青春の果てと思わず「獅子座」の座
おののきつ媚薬というや冬灯
ピーマンの紅いろのとき妻の黙
少年のうすうすの髭鯊日和
来世まで腰を伸ばせよ烏瓜
一月の溶接光が見えおとこ
俳人老い易く芋煮え難し
大臣(おとど)もすなる平成俳句咳き込みぬ
巧言の俳句ばかりに白障子
おでん味見つ煮つだんだんと鴎たち
市田柿ぽったりのこと空のこと
こんなにも鴉のために冬青空
歳晩の湯のほの赤き人ごこち
1997年 父母の八十路の艶か黒豆か
田造りの数のはるかに土佐の母
一つ喜び二つの愁い柳箸
淑気かな八十路の父のしわぶきも
エプロンの白さや七日駅ラーメン
噴水の冬の時間と猫時間
働きし演歌の刻の寒椿
冬晴れの気圧を耳に猫が夢
恋鴎一月川面揉まれつつ
繭玉や経師・テーラーもんじゃ焼き
「仕立て直し」とテーラー月島羊歯飾る
人民服は老いの眼差し寒の雨
物乞いの幼な聡さや駅寒むや
煮卵売る厚着や声の冬の駅
僧を見ず黄塀長きに寒山寺
三寒のこの鐘突いて若返る
泣き堂とか茶梅窓より一花づつ
太極拳手足を運ぶ深い霧
まず見えて階・橋霧の大運河
蝋梅や四馬路探すに煙草売り
蝋梅の一輪氷り拙政園
石の花とも蝋梅の一輪は
辛夷の芽運河へ降りる階戸毎
売り声や春節近き龍の玉
春節へ目の竿秤茶葉を売る
豫園ニイハオ寒鯉の背へ声あまた
南京路人ら寒きに灯のコーラ
「オールマンリバー」響きわたるに冬の霧
知事寒むや橋に虹の名あることも
青島知事か橋に虹の名ある寒さ
MOMA晩夏獣の背なる男の像
「ショーボート」黒人霊歌水温む
塀に向く男腰の晩夏マチス像
「遠い日の花火」うつつの寒の妻
寒椿海抜三三に焦げいて
マフラー緋色大笑いして車椅子
山茶花の数数えいる税理士か
時よ止まれそのたらの芽の薄みどり
うま酒や一つ残りし衣被
石榴咲く真砂女定めの厚化粧
周五郎忌やそら豆のふっくらや
五五歳といういい歳迎う冬薔薇
五五歳のいい女です雪残る
二月うま酒システム手帳厚き女
鮭茶漬孫いるなどと四十路かな
衣被孫いることも四十路かな
周五郎忌の黄梅盛りにぎりめし
自転車の前後に姉妹春一番
佃伊之の磨かれし戸や梅蕊に
高枝高枝と住吉さまの辛夷咲く
とう小平死すシクラメン影なきに
おやじっちなど呼ばるる日猫の恋
大川荒るる頬雛の日の立子の忌
茂吉忌の妻や不思議の花粉症
彗星の在処を探す花辛夷
春疾風ペルーの鳩の喉乾く
加賀鳶の名の酒つづき風光る
自分史の花あるときや囀りや
たまわりし手盆おひたしわさびの葉
横浜の桜咲かずと雨の一花二花
酒呑めと連翹の雨花の雨
猫の子のその名繭子といい当てし
ためらわず五十路花屑踏むことも
大川りり桜二十歳の痩身の
椿咲く三河屋という屑鉄屋
三毛猫のぐっすりの腹鳥雲に
清水湯の五歳の桜覚めやすく
土踏まず優しくなりぬ牡丹の芽
女三代髪染めている桜どき
税五パーセントの身を出して夜の蜆
花水木ほの父と子の日曜日
浅葱刻む音客との話四月雨
「特措法」なる無頼つつじの火の嵩に
小諸城址の愚直な欅芽吹くころ
雨物話葉桜の葉のたっぷりと
春風邪の抜けて新羅の鉦と銅鑼
坂上に腕遊ばせる真少年
子を呼ぶ掌ひらひら余し青葉風
春の蟻生きるとまどい集りし
「こちらリマ」一テロ兵士若葉見ず
本わさび・雲丹にごり酒一合へ
葉桜影未熟児の指ひたすらの
龍の日や甘酒たまわりし後の口
汐満ちし灯の佃堀葉桜の
妻以外一切是空酔蝶花
汗ばみぬ男の乳首話すのみに
葉桜の葉桜の香の戸毎ビラ
山姥と瀬音や蕗の葉隠れに
ヘルメット横抱きに汗小学生
妻以外一切色即是空かな
マロニエ花下ローブ姿もバルザック
マロニエ小花青年レーニン迷い道
カルチェ・ラタンいまの静もり五月咲く
サン・サーンス墓標の薔薇乾きし音
散り敷いてマロニエ小花夢の中へ
モネ晩年の睡蓮の闇水中に
モネの睡蓮水蒸気と日とゆらぎつつ
セーヌ河少女の雀斑とも五月
花満つ広場王妃マリーの忌を知らず
ボーヴォワールの墓へ雨傘虹色に
バスチーユ少女は金にはばたく塔
マロニエや百年前の塔の鋲
看護婦の制服ピンクつつじ咲く
卒業の十八歳声の大人ぶり
赤城さかえの忌なりたっぷり五月雨
若葉冷えなる介護法案・くじ法案
酔蝶花妻のみにある尻黒子
声敏き性ナース俳人夏霧に
亀の歩みの我と兎と若葉雨
五月尽く雨豚のこめかみ串焼きに
栗の花ゆるゆる歩む天城かな
若菜和え季語と食べつつ酒二合
酒後に必須の柚子・浅葱の雑炊や
供ちょこや古漬け胡瓜小刻むと
スカーフの若葉雨かの淡きいろ
魚野川見る一生や胡桃咲く
月夜野のひとりの歩幅田を植える
信濃より旅して広き青葉川
はさ木の列芽吹く左右の広き風
いちにちは越の田遊びあめんぼう
分かち食ぶ蕎麦越後三条榛芽吹く
竹皮を脱ぐ五合庵晴れてゆく
苔咲くや田舟を組みし一御堂
良寛に会いし後吾に椎の花
佐渡恋の早苗と星と芭蕉みち
じょんのびの朝野地菊のどこにでも
滴るや草庵ほうと良寛さ
蝉時雨良寛に恋生れしころ
越の田のあめんぼ世界どこまでも
川初夏へ帽子を掲げ少女像
あじさい純花子の三輪車あぶ危な
まだ開かぬ眼舞と名付けし初児へ暑
天安裏や浅蜊の煮立つ香の中へ
女性書記北京語蘭の咲くように
にほん語の葉桜という濃きみどり
深Q特区クレーン新樹の羽根延ばす
香港へ造花の「回帰」稼ぐ裸
青年の日焼け痩身獅子頭脱ぐ
裸子へポスター巨に笑み江沢民
梅雨のある国はためくは「墓地分譲」
コンビニ前にしゃがむ子吸う子五月闇
芥子咲きぬ覚えきれない党のごと
梅雨晴間放置自転車子のように
ただの犬ただの街並もちの花
まだ母に従く男の子夏帽子
白セーラー服どこも張りつめチョー」ことば
「信」の碑とは住吉さまの藤青実
父を語るは炎暑大正デモクラシー
「天国の日陰」に眠り山頭火
鳳仙花罪なきもののかそけくて
炎天ともに誕生月の同じ師と
暑の三日「君はね」などと父のごと
茂る葛一気に坂を下り行く
金色を仏となすや冷し瓜
梅雨激し鍵をともにすひとの肌
茨の花終りをともにビルの階
夕顔や仏の指の枯れしまま
まだ濡れぬ木下ふところ荒梅雨に
火の山は霧にすぐ消え紅うつぎ
馬の瞳の樽前山ははや霧に 
室蘭本線黄菅は三歩づつ離れ
蝙蝠の柔ら身室蘭停輪子
巴里祭知らず少女夜光の北の埠頭
崖うつぎ母恋の駅のすすけしも
アイヌ語のホコイは母を呼ぶひばり
炭臭嘉樹洋館の語も月見草
こんなところに志功裸足の神・仏
室蘭海霧や太穂四十路の眉太き
ねんねこの子が室蘭の夏鴬
日盛りの工煙ホロホロ岳と聞くに
はやぶさやチキウ岬に影消える
断崖にサビタ見つけし男かな
留寿都村柳枝柵のすぐ芽吹く
地の果てはありじゃがいもの花盛り
背広決りし留寿都村長じゃがの花
熱込もる背広村長じゃがの花
じゃが花の三色をガイド亜紀ちゃんは
洞爺湖の夏暗き面馬の鈴
岩内の大平原はそばの花
マツカリヌプリ甜菜茂みあたたまる
白樺の肌のいつまで大緑野
チセヌプリ純林繁り騒ぐ雨
岳樺不意の雨来てキタキツネ
アスパラの葉騒の涯の媼顔
海霧忍び込む雷電の湯けむりに
余市七月烏賊釣り船の昼ランプ
「女工さん募集」夏色余市大通り
身欠鰊のいろ女工さん・パートさん
別れハマナス「せめて歌棄」までの恋
「せめて歌棄」恋ハマナスの追分の
神威岬へ投身の丈エゾニュウは
エゾアザミ女人禁制門は在り
「海鳴り」酒場へ何里を歩くエゾアザミ
鬼鬼しきはいまの真夏の隠れ礁
恋し恋しは神威岬のハマニガナ
朝凪の忍路大蕗声忍ぶ
共にして忍路・銭函・大西日
小作争議の遺跡のただに沙羅の花
「工場細胞」その港町ただ暑き花
「工場細胞」その町素足少女たち
ブックバンドの青年多喜二ポプラ雨
肩斜めに白シャツ少年多喜二の坂
夏の雨坂の上下に整・多喜二
鉄路に添う多喜二居跡の小昼顔
多喜二居跡の一本の棒昼顔よ
驟雨来る多喜二粗ら碑のぬくもりに
カラオケ慎む多喜二の夏の痩せていし
デスマスクの多喜二へわれら海霧捧ぐ
海霧流れる迅さ小樽の女子高生
腹の出具合太穂と競う青湯滝
浴衣帯ゆるく太穂と青楓
滝岩こまかに洗う男小樽外れの湯
夏灯台へ駆けて不覚の五十代
足の傷冷やす金冷法などいうな
「樺戸集治監」人形の瞳の北の夏
裕次郎の忌も石狩の空・青田
皇紀とは元号とはと油蝉
腹出しと笑うは兜太青湯滝
足の傷冷やす金冷法というなかれ
季語食べており蓴菜や蚕豆や
酒後に必須の雑炊柚子と浅葱と
浪人の名は少年へ竹煮草
油蝉元号なんぞ皇紀とは
黴ていし天皇陛下塩むすび
蛍飛ぶ代用食の空き腹に
涼し焼跡母にありたるあばら骨
憧れて見し帯剣のかげろうの
青葉茂れる果て金次郎・御神影
夜は蚤のもんぺの母の二十代
死者に語らせよ蝉と蛙の「大東亜」
苔蒸す屍の語るは南十字星
ゲートルの父が蛍の夢のなか
いつのまに大和魂空蝉や
八月六日や「新型爆弾」てなんや
草いきれ敵機グラマン星と見し
顎あげし大元帥とコーンパイプ元帥
顎あげし大元帥とシャツの元帥
涙ではないすいとんの塩味は
楠臭う皇位国体護持英霊
一年生は国防色の夏いきれ
筋多き農林一号ごちそうで
八紘一宇なる焼け跡のねこじゃらし
火叩きでこの蝉時雨「消しませう」
楠青葉玉音放送信ぜずに
夏薫る石鹸一塊ララ物資
DDTの戦後は暑き木の校舎
死は群青特別攻撃隊南風に
日曜画家のスケールに外れ鯊日和
ねこじゃらし日曜画家をスケッチし
えのころの初ぶな季「天安」暖簾新ら
マンションの隙間の日差しあめんぼう
新豆腐ですコンビニの朝ぼらけ
ネクタイの秋暑を解かぬ池袋
明石町裏今朝からの木槿咲く
秋暑し五千石逝く綾子逝く
祝うことなし誕生日暑のひとつ
アラブ街食べるものみな辛き汗
アラブ街ムルタバ朝の辛き汗
ほっこりと晴れし横丁衣被
金山人形動きしゃべるも秋冷ゆる
佐渡おけさ手慣れの踊り素通りに
夫婦の旅佐渡の稔の丈短か
佐渡びとの口籠る癖蕎麦の花
点滴の薄紅葉いろまぬがれず
「禁食中」の赤さ葉月の枕許
癌の報一撃九月沈みゆく
入院報やひと日木槿は風の花
「気を強く持て」と師の語の杉九月
ねこじゃらし生きるものこそ澄みわたる
田畑義夫の齢と欅黄葉しつ
真樹さんのいない九月の口籠る
「五十年史」の真樹かりんの実はぐれ蝶
ひろびろ稔り田なぜ真樹さんの葬の道
霧の中自ら音す変電所
酔歌なる「信濃の国」の秋の山
発電風車の秋の気知らず「茂吉妻」
「漱石の妻」吸うなと佐渡の蕎麦畑
芭蕉には妻なきことも櫨紅葉
治癒ですか女医の葡萄の息受ける
階登る歩幅の齢薄紅葉
板橋の路傍に老いぬ水木の実
休み日のたっぷり濡るる竹の春
奈良三条稔り田菜畑きっちりと
さびしさの寄り合う奈良の藁ぼっち
離れては寄り白鷺の羽づくろい
北を見る南を見るや葱坊主
かの「個性」かりんの実より珍妙な
新幹線霖雨に愛知流れ行く
新開のすきますきまの田の稔り
木曽川の終わる広さに鵜のごとき
ずかずかと来て菜殻火の焔のように
民のことごと大和の虹の太根には
眉白きこと浴衣肩張り旧友よ
秋光濁るに水平らかに奈良盆地
平城京祉あまりに原や青鷺や
稔り田のなお稔りつつ大和かな
平城京祉金木犀その一本の
ねこじゃらし生駒を低く古き原
交番の名は尼ケ辻昼の虫
白萩の人声ごとに白こぼれ
薬師寺の瞳まぶしき実むらさき
夫婦同じく老い鑑真廟苔青む
黒揚羽鑑真廟の小ぶりにて
秋篠川鶏頭いろのせせらぎよ
持国天剣へほっと黄蝶の黄
般若寺の楼門はひとり風のコスモス
のどぼとけなき石仏芙蓉咲く
蜘蛛の糸引き合い道祖神夫婦
獅子に乗る文殊の遊び夜露まで
僧兵のたけびのきっとコスモス寺
広島の火長崎の火の曼珠沙華
金木犀の路地しっかりと奈良格子
奈良坂はなぜ七曲りかりんの実
野球帽天平少女露消えて
蜂むくろ乾く「般若坂決闘」
いつまでも暮れず大和の曼珠沙華
大和とはヤマトではない茸飯
コスモスは乱れ咲くもの般若坂
メキシコの空を大和に秋桜
元祖暖簾の洗いざらしに秋の風
掌をあふる舞茸の舞い重きほど
佃煮屋奥行き深き神の留守
石臼のいつ目覚めたる木の葉雨
尋ねきし南無新蕎麦やうま酒や
黄落や南無「翁」蕎麦喉ごしに
黄落夢中湧水三分一とても
よちよち子岳の秋空深くつかむ
ねこじゃらし八ケ岳の秋空なることば
草紅葉書の楸邨の晩学に
まるめろ落実半ばは土に帰るころ
句碑裏やまるめろの実の香堅き
甲斐駒の一番星や枯れはじむ
屋敷柿熱ぶ温泉裏山手
日蓮さんなお肩張る像杉は実に
年越せぬ紅葉首相の語の軽さ
蕎麦切りの香のあるなしやブナ黄葉
手触りは「漱石」ばかり年詰まる
銀杏黄葉一句のために夫捨てて
桜落葉その何枚は母と子の
黄葉通りのひとりくさめも少女にて
いつ腐つ生活の道の水木の実
睡蓮へどこよりの光オランジェリー
漫画世代の中年の肩且つ散りて
顔上げし桜もみじ葉おおぶりに
金融不安まざまざ雑木且つ散りて
声出して蜜柑の出ごろ自転車区
弁当ひろぐ電工のああ冬日だまり
高速路下ほのぼの明かき夏蜜柑
花火咲くのみ秩父の底の冬祭り
秩父屋台待つや白息ひしめきに
腰決まるよ親子餅搗き本調子
母と娘の餅搗き調子佃堀
町内の犬猫どちやくばり餅
餅腹や佃小橋の澄むときや
「腰で搗く」母のことばの佃晴れ
若女将いつもの座にて年詰まる
術後の歩みともにす横浜の桜紅葉
術後の歩み小春やともに伸の碑へ
痩せれしこともまず福冬眼差し
五十回噛むとぞ術後黄葉しきる
虎落笛「敵機襲来」あることも
十二月八日恩賜の煙草くちゃくちゃに
姉さま被りや千人針のころの北風
野宿して大本営の樹々枯るる
不沈戦艦大和と揺れて秋桜
青葉繁れる国民学校御神影
配給の甲乙までも木枯らしに
寒かろうゲートルしても父の脛
茘枝ほど瞳の動く趙夫人
1996年 唇のみの屠蘇や傘寿のめくら縞
まり子千日生活の詩の初明かり
賀詞のごと八十路の父母のいさかいは
母といてむかしむかしの姫始め
裕仁忌寒白椿瞠りいし
「天安」の猫の腹見し昭和の忌
路地の党ポスター七日陽ざしつつ
捨てられしごと雪と大八車
寒鴉母の母の地大日だまり
凧揚げてヒマラヤ杉の丈寒し
母いますまだ冬虹の立つ齢
冬日向手押しポンプと犬猫と
高鳴るは欅冬芽と久女の忌
久女忌の胸どきどきや五十代
山茶花と始業チャイムと乾きいる
瞳ばかりの少女を愛ずに三学期
寒欅抱けば樹液ののぼる音
熱海寒む第一波涛は我が胸へ
愛しさは信濃の蕗の姿にて
闘いて争わず日へ寒欅
つわぶきの胸どきどきも久女の忌
「住専」よりは風邪熱二日三日の頭
立春大吉路地衆の餅つく音
立春の聖路加チャイムにて酒か
路地奥の観音由来春立つや
五十路半ばは歯科衛生士石蕗なじみ
「住専」日々の冬空探るクレーンの腕
皺む齢美しきことも冬欅
まだ玉の妻の胸乳か春粉雪
もう玉の胸乳と言えず春粉雪
闘い経し白髪白息あたたかし
春の雪「住専」と津波警報に
太穂老わず大川沖の寒むさ行く
生まれくる詩は冬幹の傷の数
セーラー姿最後の季の雪降りぬ
枯野より呼ばわれるもの力瘤
老うなおうなと春雪と鳴り太穂の歩
赤い子ら雪ぶつけあう小公園
くるり出てくるり隠れる春欅
外に出でよ触れずとも散り雪欅
横顔の真顔の牡丹つつしみぬ
まだ横浜の雪固きこと多喜二の忌
横浜黄金町蒼白に女が雪
横浜黄金町河東西に女寒む
志まだ丈高きこと雪欅
樹の奥の奥の梯(きざはし)春の猫
滓雪の葉山の樹々に「様」付けて
斑れ雪小町通りの名のごとき
時よ止まれ母より強く野水仙
昼酒や子安の実梅咲くころの
撒きしごと花いぬふぐり帆の沖と
笑顔咲く五十路六十路も雲雀どち
海へ坂水仙・菜花二百円
黄梅の二つ三つ四つたちまちに
屋根雪の一戸の眠り字子安
五戸分の新聞ポスト杉花粉
雪雫よりはじまりぬ子安川
白息や駆けて渚の犬・鴉
鈴鳴らすお滝不動の水待つに
「老痩蕾稀」とて梅の花覚園寺
蕗のとう盗る煩悩の五十路過ぐ
水仙の百や日時計止まりたる
白梅に紅混じる空海に没る
足冷えるころ太郎庵椿咲く
足冷えるころや一重の椿咲く
千曲川雪の素顔の頬紅き
地酒「真澄」と雪や集団疎開の碑
一九年訴訟後の雪いつまでも露天風呂
桜の芽ふくらむことの秘めごとの
吾子なれば繭子と呼びぬ名残り雪
大川の芥かもめの翔びたつよ
早起きの烏とニョニャ(婦人)と涼しくて
トライショー(輪タク)日焼けの深さ老いゆくよ
新聞売りとブーゲンビリア路の花
ブーゲンビリア拳舞の女の時間ある
太極拳の女の時間蘭いつも
少女とも母とも日焼け屋台村
汗はなぜビンズーの神びっしりと
乱れ咲く蘭へ日本語中国語
冴え返る石蹴り遊びきりもなき
読めば涙の十七歳と芽の欅
笑いあうじゃんけんの意味鳥雲に
ぼろぼろの歯を惜しみいて桜烏賊
口尖る恋女房も鳥曇り
春すみずみに太鼓の低音一勝利
欅の芽「勝利」の二文字祖のように 
髪薄きを笑いつ野火の香の男
髪白き鋼よ令子梅一輪
原告一九年黄梅・馬酔木低く咲く
水に映る花菜や訴訟歳月の妻
花辛夷米寿を越すに火のことば
祝わるることばは春の雨のごと
辛夷高咲く原告の名の一九年
辛夷咲く原告の名と十九年
集い来てまず笛鉦の田植え舞
跳ね打つは太鼓青年期の汗と
馬酔木咲く伝写楽碑の影のごと
八角時計しだれ桜の遠く咲く
寝てばかりいて春霖の本降りへ
いさかいの姉妹の背丈花の下
立ち眩む満開の昼警備員
「老春」のひと雨ごとの葉桜よ
痛む歯のがたごと桜雨しきる
明石町おぼろや虚子と見し男
啄木忌黄ばむ清貧なることば
万太郎忌や佃小橋の朱もややに
さくらちるひとひらにひらことごとに
立ち食うて国労うどんメーデー歌
メーデー緑雨争議仲間のいわずとも
クレーン船の午睡の油紋隅田川
きっちりの鉢巻き五歳祭り笛
笛鉦に幼な浴衣のひかるるも
青葉ロードのすぐに止む雨アトランタ
ドッグウッド(花水木)の咲く晴れ地平までの道
泥にまみれてオハラ立つ像花水木
マーガレット・ミッチェル幼な聡き眼冷房に
南軍・北軍鉄錆びて画の花水木
戦火ともタラへの道のライラック
ドッグウッド(花水木)の遠咲く地平までの晴れ
ブルーなジャズと肉の香地下の春のごと
青芝晴るるコーク・バーガーのみの食
玉葱スープの汗にってりとサザンベル(南部美人)
肌黒きとか黄色とか噴水に
一羽にて鵜の飛ぶことも五月冷え
まだ宵の神輿の重さ羽織衆
粗壁涼し「暮れ六つ」という裏仲の
水の位置より若葉の冷えの葛西橋
隅田川五月の指の冷えるまで
築地大獅子囃子稽古も日曜日
祭り稽古の鉦笛巫女を休ませる
額咲くや「ガリ」・「純潔」を死語辞典
「ガリ版」・「純潔」の青春汗す死語辞典
新樹光航跡幾重とて悼む
青葉風水脈といいつつ荒き波
「胸がない」など十二歳もう葉桜に
つつじぽつぽつ従軍ナース像眼をあげ
アジモニに抱かれてはねてアトムシャツ
供養とて「銀恋」も梅雨酒つつしむ
日の出町梅雨へ競馬紙男たち
遺影いよよ長身定むえごの花
直く咲く十薬御小庵ここも
駄句の碑の大緑陰や苔の段
駄句の碑の苔の石段にて涼し
六十路七十路昼顔のごと笑いあう
惚れやすき松葉ケ谷のゆすら梅
ぼたもち寺青萩恋のごとさめて
花十薬日蓮法難窟いくつ
葉桜や恋のさなかの歯の悩み
悩み多くて美代子今年のにきびあと
青梅雨やたらちねという垂れ乳の
地下鉄の七夕笹に消費税
雨にはじまる七月の幹片濡るる
虎の尾や荷船休みも波の歌
そぞろ大川未央柳の残花など
鵜はいつも広重絵にて河灯台
CMの「いいじゃん」言葉荒梅雨に
かるがものその末尾なる楸邨忌
地下鉄の午睡の嬰の口動く
樹の影や茅舎忌五五たびにて
煙草吸う白セーラー服のしゃがみ癖
香港の冷房「安居楽業」か
住吉大神夢の世よりの大幟
佃島っ子青柿のまま路地のまま
小昼顔屋号あるなし両隣り
灯を入れて大提灯や夏の風
きっちりと梅並べ干す軒の幅
枝豆や小太鼓太鼓本調子
江戸前漁師の裔日焼けか地の色か
開け放つ屋号佃の宵祭り
美代ちゃんを崩してしまう氷水
祭り浴衣や流木のごとぶつかりぬ
少女より背伸び一歩の鉢ひまわり
屋号あるなし祭り囃子の本調子
遺影掲げて神輿迎えや佃びと
ぶっかけ水や江戸前漁師は裸声
神々のどこにも踊りジャワ更紗
ジャワダンス女体裸像も仏にて
スコールのあとの灯千里瞬かず
輝くはモナスの灯より裸足の子
ガムランの始め涼しき音色にて
民主主義激すガムラン音色かな
鳥のように蝶のごとくに舞うも神
夾竹桃ほうほうジャガタラお春どこ
樹の名前確かめている盆の街
零歳のしぶきの虹の笑い声
一粒の媼の言葉滴りぬ
二番星三番星のたちまちに
三流詩人廻り灯篭逆廻り
四君子はいや真子だけがひまわり
万燈や幼な踊りの色めくも
夜流しの踊りゆっくり酔芙蓉
昼流し八尾和紙よりしなやかに
風の盆三日に重くしめ太鼓
風の盆嫁より母の足早に
踊りいま雪流し水すばやくて
蜩と胡弓揺れつ風の盆
おわら踊りを待ち恋がれたる大芒
酔芙蓉風の盆待ちこがれ待ちこがれ
合歓の花終りを晴れて日本海
あいや高音のおわら盆唄人混みに
幼な踊りの手振り色めく風の盆
胡弓弾く男腰やおわら浮き沈み
坂ゆるゆるおわら胡弓と蜩と
水音ばかりおわら盆歌祭りあと
連れ唄う雪流し水緋の風の盆
身を反らし踊り止まれば紅衣装
風の盆未婚の踊りの今日の紅
風の盆青年ややのかかしぶり
おわら踊りの緋の渦まみれ日本人
指先の反り匂い立つ紅衣装
風の盆三日雪流し水連れ唄う
紙砧消えしおわらの三味線・胡弓
おわら盆唄高音やゆるり町流し
花終いかおわら八尾の酔芙蓉
風の盆編笠あぎと十九歳
ためらいや踊り編笠紐解くに
障子一枚明け白みつつ町流し
はじらいやおわら編笠脱ぐ刻の
簾より見ゆる現つの夜流し
おとがいの白さ恋しき風の盆
白川郷縄文の汝の涼し笑み
こきりこや男芒に吹かれ寄る
彩極む自在鉤あり熟田光
ねこじゃらしねんねんころり父の唄
髪切りし鏡のなかや青芒
奥信濃梨の甘露の妻のこえ
むくげ一花も夢二・藤村下宿の碑
おじぎ草一人の触れてみな触るる
ビルからビルへ朝日冷や冷や五番街
囀や自由の女神の胴登りいて
わが椅子の「カラードオンリー」にて晩夏
晩夏ひらひら移民の道の栗鼠二匹
あこがれの晩夏錆びゆく摩天楼
秋ですかピラカンサスといういろの
少年の今日の唇ねこじゃらし
選挙後のポスターの笑み鰯雲
鶏頭四五や豆腐屋消えし駐車場
噴水の秋犬猫と乳母車
手首より眠りはじまる鉦叩
天丼に街の紅葉のひとひらを
産院の柞紅葉と一警備
新松子どこまでつづく歯の話
セブンイレブンより紅葉の始まりぬ
木枯らしの一号母のまなかいに
ごま塩五分や佃由来の石蕗の花
風邪ぎみもケロッピと跳ね五歳ほど
効るるの学祭ジュース紅葉いろ
学祭のバニーガールの焼きそば屋
新蕎麦の香や小諸なる祖のことに
衣被姪の二十歳と飲む酒に
松茸の薄きを愛ずるどびんむし
柿すだれさびゆく軒の風のいろ
安室形の眉に山茶花ひとそろい
触れて輝くジュリエッタ像蔦紅葉
磔像やアディジェ豊かな冬の河
ミラノ秋光なぜ千体の聖者像
冬芝や別れことばのヴォンジョルノ
夕霧やミラノ小道に娼婦の緋
ムッソリーニの窓冷えている大銀杏
霧の灯やジュリエッタ像いまも痩せ
肉体のかくもミケランジェロ冬へ
無名戦士碑燃えつづけ冷ゆローマかな
山茶花のぼつぼつ駅へややの坂
柿すだれ一葉父祖の地のひかり
かりんの実四五六積まれ花後の寺
柿すだれからりと晴るる今日の母
「風林火山」金泥ややの黄葉かな
恵林寺の且つ散る嵐にてひとり
銀杏黄葉うぐいす廊下ときめきに
幼な馴染の四十路ちゃんづけ紅葉の季
ときめきの枯れ実紫一葉碑
うかうかと波郷忌過ぎぬ煮大根
鯊日和江戸塗師いつも不機嫌で
葡萄葉の紅葉重なる恋懺悔
わが耳の祖父より来る冬椿
冬薔薇祖母の色白はわが頬に
冬鴎妻の五十路の肩揉んで
冬日差し肩揉むときに願いごと
冬の虹オハラの明日ぼくの今日
賢妻や母にはならぬ桐の花
師走妻兜太百妻より猛く
嫁ということば信濃の林檎来る
長子かな父より近き雪の華
冬薔薇夫亡きあとに匂い立つ
桐の花母になれずも賢妻に
山茶花の白の切れ味日和坂
1995年 千手不思議や千日千句ことさらも
こけしの眼千日千句風花す
きかんきのこけしと妻とこぼれ雪
吹越しのこけし細目の風呂上がり
こぼれ雪待ちいて初湯木地師村
名人にて候雪に酔い屠蘇に酔い
お降りや父似母似のいさかいに
猫だけのこけし工房松飾り
寒鯉のあまたも湯宿あばれ川
虎落笛早暁地震速報より
「津波の恐れありません」震災の寒はじまりに
齢ややの歩に見ゆ冬の白椿
悩みあるなし一月細みセーラー服
冬空一枚「超高層阻止」へ空色
阪神震災以後の冬枝つまびらか
月島運河の鳩とさざめき雪しずく
東京の雪に酔うこともんじゃ路地
ゲーム機にたむろも雪後路地観音
暗記する青春二月膝小僧
おかみさんのジーパン雪の築地っ子
月島の湯に灯が入る雪催
多喜二忌の欅冬芽の見えずとも
内股の齢か青き冬帽子
七ツ井雪か観音さまのぬくもりか
三味糸の空糸車雪に寝て
桑の葉もさくも宇吉もなき斑雪(はだれ)
栂尾さく十六歳は雪糸車
栂尾さく十六歳の唇夜の斑雪
さざんかの唇吸えば「さく」十六歳の
靖より太穂のほとけ斑雪ほの
靖より勉のほとけ二月闇
蕎麦食ぶは字渡岸寺寒の水
湖国みな雪千年の腰みっしりも
梅一輪大地震後の観音の
北国街道湖国に出ては雪しずく
観音の腕したたらすしだれ梅
見染めたる千年の腰雪の北
渡岸寺さま兵火の煤の頬や雪
妻恋か渡岸寺さま恋か雪
余呉ことにまっくらやみに熊の肉
熊の肉食らえば不老余呉の雪
雪嵩や湖見えずとも湖あかり
きびしさやさしさ太穂の雪と余呉の雪
「若返る」など薄氷の余呉のこと
春迎え餅一枚の朝日にて
幼なと老いとおこないの日へ奔る水
和讃老若百戸かたまる春迎え
ちぎり餅花和讃深みへ乳母車
男手の餅花ひとつづつ点る
鴨のごと老いのかたまる句仏かな
寺なくて咲く寒椿十一面さま
尺雪や「観音疲れ」なることば
鉢梅のつぼみの数に仏たち
母よりもいしみちでらへ春の水
石道さまか大根洗いし昂ぶりか
石道さまや大根洗いしあと立てば
菅浦や凍み葱の他なくて湖
四足門惣の男女の冬日焼け
湖奥や棚田の形に雪残り
湖奥の焼板壁に祖母の冬
菅浦の凪に囲われ葱坊主
あらたまの護符菅浦はまむし刺し
村に一つの店大八の梅紅し
湖の国の奥の奥にてかいつむり
杉の花ほろほろいまの仏たち
手無し足無し己高(こだかみ)仏春の雪
尺雪に腰すわりたる村観世音
えり(魚入)たのし鳰恐ろしきことも晴れ
盆梅や歯漏れ言葉は愛で言葉
鉄砲鍛冶の史へ紅椿白椿
梅見しあとのくらくら螺鈿火縄銃
国友の村の壬生菜のやさしみは
三等切符のひとりは母かもう梅か
公園に祖父忘るるも比良八荒
築地散歩や明治浮世絵と霞む
文明開化の髭や三月明石町
春寒や整路加タワー足音の
ふぐひれ干す治作裏口花菜光
よく寝らるる今日の雨音欅の芽
受験期の木の芽の固さ雨つづき
サリンの日妻勤めいていて霞む
サリンの日妻いて言葉ありて春
巧言令色サリン渦中に雪やなぎ
水上勉全巻積むもなごり雪
女袴の黄の香りとも春の雨
ポケットに鍵ある重さ花粉症
春の雨きざす路の樹関帝廟
春は小股に関帝廟前灯うるむ
黄梅散り尽くすサリン後妻のことば
黄蝶去る速さ五十代去る速さ
純俳句純寒牡丹透明に
サリン後の富士見えること三月尽
サリン後の富士見えていし三鬼の忌
身を細め明治ガス灯さくら二分
シーボルトの髭銅像へさくら二分
さくら二分築地シーボルト像なぜに
こぶしちらほら聖路加タワー足元の
山谷俳人浅春母校小学校
靴発祥の碑とおぼろにて入船町
明石町ただおぼろにて虚子忌かな
貧という純という文字啄木忌
二眼レフ・学帽純情霞みおり
日時計の四月われにも皓歯の日
母は剛妻は純にて花なごり
道幅やマンションに垂れ鯉のぼり
明治浮世絵朧ろや「築地物語」
花水木咲くこころざし平らかに
万太郎忌や佃大橋ただ吹かれ
四月尽釣り舟に灯の隅田川
婦唱よし佃小橋の紅牡丹
佃堀紫蘭の月日しっとりと
白つつじ交換日記ゆれず咲く
木崎湖のしずくみどりに道祖神
きみのまつげ紅牡丹はた白牡丹
屈背なかまの晴れいくばくか白牡丹
佃熊の二歳手を振る春かもめ
佃めぐりの「不審者」われら幼な萩
メロン好きの「尊師」なるもの夜の富士
上九一色村の乳牛に霧四月尽
金むぐら最終解脱は戦争か
笹鳴きや「オウム」隠れ路深まりに
あくたれの三女も花や竹煮草
八重葎ハルマゲドンの王国は
ブランコのいちばんにばん茗荷の子
玉葱の妻の齢やむっちりと
平和像の腰の一布も青欅
山国を出てきし顔や瓜の花
女ならば五月の猫を突き放す
うぐいすのしきり降る朝オウム食
富士と笑む日の農とうぐいすしきり降る
夏の霧空中浮遊せよ「尊師」
サティアン(真理)を出でて真の辛夷咲く
シヴァ神の秘儀見ていたる月見草
イニシエーション濃くなってゆく夏の霧
うぐいすの輪廻転生楽しけれ
「グル(尊師)である」などと出てきし蟇
夢消えし杉菜ばかりがあおあおと
富士老わずマントラ(呪文)とうぐいすと
芭蕉没年過ぐに重たき夏布団
ひるがおや翁と呼ばれしひとの恋
五十代恋猫の夜の数ほどは
「遠い日の花火」か恋のひとつづつ
青萩や声みつみつも五十代
多佳子忌の雨やこだまの隅田川
かたつむりの遠目や荒れて隅田川
老夫婦腕組めば雨朴の花
江戸塗師路地の時間の梅雨ごめに
隠れ路のいくつ真青な額の花
隠れ路や夏鴬のほしいまま
まずトマト「築地魚よし」肩触るる
蕗の葉のひろがりと晴れ新河岸川
メタセコイヤの幼な青葉や大川や
隠れ咲く泰山木や佃堀
合歓の花秩父のほかは知らず咲く
まだ花知らず記念樹のひめしゃらは
芍薬や妻よりほかに唇知らず
太宰忌や妻より白き沙羅の花
解脱して歯・眼衰うも合歓の花
降らずとも赤い傘さし多佳子の忌
青梅雨や着たまま眠り少女妻
肩よりも胸びっしょりと桜桃忌
妻のみに眠れ眠れと若葉雨
五十代遠目にも揺れ白つつじ
梅雨の灯の連なりに老い氷川丸
触れてみな赤い靴の像薔薇夕べ
また会い得卯の花影に愛吉碑
ひばり忌と福竜丸の肌ぼろぼろ
藤は実に呆け封じとて願かけて
佃散歩のことし薄手の江戸風鈴
たずねあぐねてくちなしの花佃路地
歳々のいろ街角のむくげ咲く
芍薬や歯抜けことばの妻なるも
地下も雨ほおづき市の吊りポスター
すがしことも夏鴬と精一氏
サリン・彰晃ことしの梅雨の大粒の
梅雨騒の街騒の樹々朝ぼらけ
茅舎忌の強き雨にて見失う
握手強き上九魂汗ばむも
シャンバラより竹内精一その日焼け
梅雨の歩道渡る子母の傘混じり
枇杷の実や子なき夫婦の雨つづく
五十路半ばはどこかに忘れ香水瓶
青梅雨と子の声晴れることも西
ゝ(ちょん)鮨の雨より先の忘れ傘
福竜丸館出てくらくらと夾竹桃
ねじ花や被爆の船のかぎろいに
河童忌やひた茂りいて大欅
香水と駆け自転車の二十代
中年の働く夏の大欅
いつまでの炎暑や携帯電話ルル
瀬音まで数歩炎暑の道の神
沙羅の花笑顔のように咲きこぼれ
ビキニ・ムルロア蝉さざなみを重ね行き
原爆忌木の船腹の朽ちゆく音
木の舵の厚み爆忌のひそひそ子
食べのこす妻の西瓜の午前二時
かのむくげ伐られしに街油蝉
男の髪の乏しきときや合歓の花
白セーラー服の肩やまぶしくすれ違う
高速路下青萩雨のななめにて
地下広場汗し親しむ華語・英語
シンガポール河畔夜涼のなんの肉
回教尖塔見つや八月ミーゴレン
夕凪ぐやニョニャ小柄なる笑みと来て
ナシゴレン「昭南島」の片影に
誕生日星つぶつぶもスコール後
五七歳は矢か夜の蝉のおとこ声
シンガポールの冷房に醒め誕生日
マレーダンスの指先は蘭咲くように
ヒンズーの神々の塔蘭咲きぬ
なんの実と尋ねらるるは青かりん
築地散歩や路樹の椿の青実見て
みみず鳴く素顔の妻の明け方に
立ち乗りの自転車のみな鰯雲
ジーパンの母やまろまろ一歳児
鬼城忌すぐや父の重みのあるなしや
サルビアの森に迷いし西鶴忌
ベゴニアのごと乱るるは午後の母
黄葉すすむもはるかな大地シベリアの
ザ・バイカルあまた秋雲眼下にて
腕太き母や南瓜の黄と赤と
したたるは洋梨オランダ朝市の
地獄門とぞ露けくて朝の犬
サルビア残花どこに抜けるも石畳
林檎かじりつ少女の朝マース川
朝のパン屋へ歴史踏むごと石畳
グランプラスはためく九月夜の楽章
ブリューゲル「婚礼の行列」のみ秋生きて
爽やかやパトラッシュという小さき犬
ネロと見し聖母被昇天図秋覚めて
ザ・バイカルあまた秋雲と死と眼下
ごり佃煮も秋のひといろ大暖簾
夢二画の女が秋の暖簾あぐ
末枯れや母と背並びランドセル
地下を出て地下鉄の空秋深し
走らせて泡立ち草につかまりぬ
税務署の前のサルビア整骨院
雁渡し税務署を出て男の真顔
ビニールの紅葉と汚れ某国旗
ポケットに電話がありぬ滝の前
声のみの子ら十月の鳩と鳩
中年を三日過ぎゆく蛍飛ぶ
河ありて山なき街や雁渡し
実習着の真青を飾り学園祭
豚汁へ学祭の声看護生
大川の秋風高み純かもめ
学祭の眼やジーパンの看護生
学園祭今日もちの実の扉を開けて
富士見ゆる朝冬帽の夫婦にて
ジージャンの母にて見つむ冬欅
秋風や黄のランドセル鳴らぬことも
十月や風の欅の革命忌
冬曇り六十路の母が母のこと
冬トマト風呂好きのまた将棋好き
「お蚕」は母の語辛き新蕎麦と
「お蚕」は母の語じっと湖明かり
下駄スケートの碑や湖からもかりんの香
湖へ涸川岡谷糸繰り唄
実ななかまど岡谷製糸の史と母と
深御空ななかまど実の思うまま
掛け大根五連を美術館裏に
暮れ早し湖と実りつ柿・かりん
日薄れつ湖や風立つ藁ぼっち
日の湖や身をふるわせて藁ぼっち
筆跡の赤彦や丹のななかまど
紅といい炎といいガレのひと夜茸
かりん街道ガレ晩年の紅ガラス
歴史館天蚕みどり雪呼ぼう
ななかまど実の思うまま湖の空
一丁二丁佃地蔵の銀杏散る
佃権の猫のっそりと黄落す
冬暖簾奥処の嫁の顔白し
冬立つや一病もなき亜晩年
太い細いなど冬のミニ中学生
黄落や文庫本ある少年期
羽子板市はポスターに過ぐ詩なき日々
散りつくし少年欅五年経し
パラボラの冬空ありて坂下区
寒むかろに虹見るための男ごえ
寒椿材木店の香のひとつ
1994年 初明かり喜寿の母にて酒支度
元日の梅咲く喜寿の絵皿かな
酒佳くて二日や青き土佐の山
ただに過ぎ三日や妻の時ありて
友五人寒のビールを分けあえば
はつ夢の土佐と淡くて弟よ
登校拒否の冬と十五歳の首細き
海あれば海の香りに柳箸
少年の不安も細枝寒欅
女正月つどいて北の菜の話し
雨の日は雨の句雪の日は酒か
創いつか増え少年の笑い初め
冬の噴水ゆるまず区民日曜日
唇乾く街寒椿のみ紅さすも
松過ぎの酒なき日にて眼鏡変ゆ
吉良さまに万両ささげたる猫か
杜子春碑寒や仙人と呼ばるる猫
家系とくとく名もなき父の屠蘇の酔
大旦ばらばらに来て兄いもうと
竜之介碑や松過ぎの街の孤や
冬一の青空と交いゆりかもめ
冬黒き碑のみに本所松坂町
初湯なる豊満も五十歳ややの妻
かんざしが碧石となり冬の橋
ほんとうに雪来きて果てず夜の業
寒や歯のぐらぐらと真夜民主主義
細川どのの小選挙区制や堅雪や
天井扇ゆる舞うも鍋鮭白菜
酒よりも鮟鱇よりも税のこと
鰰が焼け鰯焼け高架の灯
悪法も今年の寒や子のこぶし
雪よりも淡き受験期子のうなじ
蟹食えば雪降り佐渡のおんな唄
のれん外して二月の闇や水の音
靴音の駅新宿の冬樹の灯
福祉なる税へ今年の豆撒かな
立春や欅の果ての日の翼
護憲派の雪残りいて街のいろ
梅小鉢湯屋・観音も路地のこと
もんじゃ焼きの味月島の雪残り
黄梅の鉢一輪も佃の子
月島の温泉という二月の灯
猫と少女と橋に出て風春の風
季語食べており衣被・山のうど
紅梅の奥幾重にて多佳子の句
鳥のごとだれかれ語り火事のあと
風花や造反の語もはや古語か
春一番猫に翼のなきことも
「超高層反対」桜の芽びっしり
沈丁花猫の道古り佃古り
耕してのち山畑にこごめ雪
妻の名は弓恵檀の芽に雪ぞ
義母は山義父は山雪横降りに
前山に雪後山の桜の芽
飽食の頬も齢の星菫派
今年会い得て月島運河多喜二忌の忌
時ただに多喜二忌おもかげ白黒の
たばこ切らして佃堀割り風光る
雨細か欅の空の芽吹きほど
二月詩乏し夢にて築地小劇場
布団見ゆ夏みかん見ゆ橋小橋
紅白梅も佃住吉社なじみそめ
二月尽河灯台も竹馬も
佃三月句碑と江戸前なるビール
佃渡し碑じゅうぶんに古り沈丁花
猫の路地誰のしわぶきも梅咲いて
弥生月島おかめひょっとこいかもんじゃ
触れあいてきしみ鳴く舟春のかもめ
梅紅白も風小橋より大橋へ
ビル増えて佃住吉梅白き
啓蟄や路地観音に水打って
欅芽ぶくは少女全身より香り
五十路過ぎたる男の香水や桜散る
囀りや啄木歌集いつ失せて
屋上の雑木林も啄木忌
たんぽぽの偏差値いくつ街区の子
高一高二か欅若葉とじゃん言葉
小椋桂髪薄くとも白つつじ
闇知らぬ区の二十四時奈種梅雨
酔いもつつしみ信濃浅春判決前夜
夢つつしむも判決前夜さくらの芽
酒つつしむも判決前夜さくらの芽
猫の自由と風の四月の鋼材店
昼の灯のもんじゃや横町鉢紅梅
雪やなぎ縄飛びも路地頬寄せて
ぶどう葉の碑ととよめき築地小劇場
築地今昔ひたひたつつじ花季越すに
白面の幼な葉隠れ龍之介
鯉のぼり陽に少年のうぶ髭も
八十路北斎しぶくは夏の涛と龍
白樺や巣箱に夏の霧出入り
ひとごえに日暮れの早み水芭蕉
まだ少女にて歓声の水芭蕉
黄けまんや学校裏も塩の道
杉菜いたどり捨て田つづくも塩の道
一茶がぬっと落葉松芽吹きそのころも
山焼きや百体仏も稚な顔
けまん咲く二十三夜は女人講
馬頭観音田水張りつつ深息や
やまざくら散りこむも山葱畑
うぐいすの野太きを花塩歩荷
字千国母より小さく野のすみれ
少女のままに母の三代なるこゆり
塩番所山吹一重咲き乱れ
わさび田の水ほどの愛道祖神
わさび田の水のあゆみもみどりにて
この村の子らより騒ぎ雪解川
わさび咲く弘法清水てのひらに
水仙増えペンションが増え野の仏
はるかも緑濃き碌山の「労働者」
戸隠の日暮れの奥も水芭蕉
鍬かつぎ鬼女伝説も青棚田
黒姫山の闇ぽっかりやけまん草
少女のままに鬼無里つつじの五十代
夏柳北斎八十路は赤き龍
劇場跡ぶどう葉われら銅羅打たな
小劇場跡うすうす汗の声小ごえ
九条武子知らずその文字夏きざす
暑き日の料亭裏の与志・是也
錦絵の居留地は碑にえごの花
丸き暑き酒井抱一墓ただの
梅雨前や清方「明石町」ほのと
三つ四つか子の階段も梅雨深み
青梅大福あります「俳句募集中」
梅雨深し米屋に米のあることも
この町の売地十坪の竹煮草
昼顔や子はジーパンの母につき
おっとせいは留守かも汗の母と子と
昼顔や脱皮の蛇の湖のいろ
白居易の径千年ののち涼し
涯しなき長江と空みな汗し
毛主席の座も断崖や夏の霧
羽根薄き廬山の蝶は崖のそと
廬山会議いくたび合歓の花大樹
地平まで夕焼くる耕長柄鍬
仙人洞涼し蝋燭赤き売り
上海深く裸灯半裸の修理工
四馬路消えしか日焼け阿Qらはいまは
弁舌も額涼しき女性党書記
水牛と家鴨と日焼け母の声
写真撮る籐椅子ここも毛主席
冷房まだらに将選集と登選集
黒白の鴎混み交い蟹工船
年輪や吾子やみどりを深めつつ
酒は火か水か長崎忌確かめつ
思い出の迷路の辻にさくら草
だれも仰がず汗や八一(パーイー)紀念塔
桔梗・ミニトマト月一のこの路地の
原爆忌花火より音のしみわたり
白さるすべり解体新書碑低きかな
太穂先生の歩と川風や汗しつつ
すみれ・蕗子と呼べば北国細みつつ
薄曇る水木の青実誕生日
夫婦ややほてい腹にて涼しけり
五十半ばも夏白き腕恋すずめ
終戦忌ゆれやすき身のむくげ咲く
感じやすき七歳のとき青ねこじゃらし
尾のとれし風鈴佃一の一
日の出湯はマンションのこと鉢朝顔
鬼城蝉ばかりその没わが生年
「裏の家」は本棚の奥九月足音
雨秋やアンネ・フランクその像の
オランダ古町降る鐘の音が雨が秋
はやむ黄葉やレジスタンスの語の消えず街
片頬のゴッホ自画像さやけくて
白鳥の運河や家並秋に入る
すぐ上がる雨やコートの娘の自転車
朝冷えやどこからも見えムント塔
秋冷やゴッホ自画像見つめられ
九月ただアンネの家のピンナップ
雨後秋日アンネ・フランク像痩せて
白芙蓉元祖もんじゃの固き戸に
美帆・裕太つぼむ記念樹金木犀
いま爽か獄中石墨句帳青
佃堀芙蓉と並び画家・詩人
地語りの鳩の青首秋簾
元祖天安うつしみ猫と秋暑し
吹かるるは佃小橋の鵜とひとと
風船かずら月島路地の昼灯
体温の夢道手ずれの句帳
盛り塩の佃稲荷に十月来
風鈴に秋来もんじゃ屋混むことも
子守り唄住吉さまの藤終いに
爽けしや静子二十歳の丸髷は
積み崩れ朝のトロ箱鳳仙花
沖指してアロエつぼみの千の紅
蟷螂の斧磯風に吹かれるも
なんの木の赤き実磯に「生きてて良かった」
会いたくて会いてかたまる吾亦紅
半四郎落としなる崖虹しぶく
吾もかもめ秋しぶく崖のり出せば
抹茶・団子も落書き机冬へ雨
いまの築地署時と洗われ冬の雨
みな触れて姫沙羅木肌冬呼ぶ雨
浄蓮の滝しぶきあと紅葉かな
築地宮川秋錆び諸鳥・鶏卵商
秋晴るるみな伏し目にて踊り子像
末枯れや天城南北晴れわたる
姫沙羅の紅葉早きも学園祭
欅高みの黄葉とふいに血糖値
天城晴れ瀬音・康成こだまとも
その白き寒椿晴れ中学校
椿笑む「不惜身命」などを笑む
血圧の上下気になる白椿
ふるまわれ佃小橋のちぎり餅
鷺舞うように餅つく老いの佃島
白せきれい月島運河澄むころの
新らの葉牡丹少女とて老い易く
五十路すっくとヒマラヤ杉と十二月
ポスターの笑み増ゆも吾と寒ざらし
豚汁の一〇〇円へ笑み聖路加祭
冬空の一枚の晴れ混む生活
1993年 霧氷の枝々高みより散り初日の出
銃と山なみ眠り眠らず関所跡
落葉と幼な箱根古道会うひとは
賢妻とも湖ひかりくる去年今年
冬枝直ぐの欅の空に畔人の眼
松過ぎやけんけんの子のどこに消え
冬空の大きさに澄む犬とひと
雪は信濃よ弁護士の肩夜の湯に
まっすぐに芝居の雪のけやき空
冬澄む遺影ややどもる口もとも
「やっと晴れたね」自転車前後の子と冬芽
ワープロの真夜白寄せてシクラメン
なに食べし二日も冬のおとこ雨
街に雪クロアチアにはなに降るか
木の芽おこしや少年に髭ありて雨
父の証言飛礫の一つ冬欅
歩確かめつ父一月の証言台
父の証言寒こだまとも飛礫とも
風無き日暮れ雪に雪積み弁護会議
父八十路利島冬晴れ見て朝湯
恋に似し雪より出でし姪待つは
果英(かえ)と呼び十九歳の眉目寒晴れに
二月果つ柴犬子犬値札見て
青横の筍五ひら白炊きに
秩父の繭枯れず眠りの百年史
布団干す階寒晴れの青一枚に
春一番柴犬仔犬値段見て
沈丁花香りもつぼみ広き空
ビラ抱いて来る盆梅の花の階
月おぼろ枝先もさくら前おぼろ
隣り家の白梅咲くも夜の音
少年忌にて大晴れに鳴る冬樹
老いら語らず桜前夜の小公園
十二階信濃菜の花まぼろしに
風の花辛夷小花も大岡川
ソバージュは風光る髪大学生
サンロードにて常念岳の春の雪
蚕棚とおきことばの消ゆる音
唇の血のいろの午後西行忌
卒業期過ぐれんぎょうの前線は
団地の森全身花のこぶしにて
荒川のたんぽぽ・なずなどち一年
風光る今日の欅の高みにて
桜五分六分の午前人散らばり
昼酒やさくらのつぼみさくらいろ
競馬場消えしあと駆け桜五分
鴎低舞う桜曇りも河荒るる
「超すげえ」など桜咲く少年語
もう葉桜姉は三歳おとうとは
今日も混み板橋大山さくら餅
子は子の樹父は父の樹菜種梅雨
桜葉ざくら太穂の酒と野球談
木の芽雨雀斑(かすも)に少女おもかげと
力草歯のおとろえと道曲がり
「いそがしいいそがしい」まだ春風の女教師で
川・人老うも春や横浜黄金町
「考えるひとでありたい」薄暑の額かな
「蕗野」一冊蝶低舞うも陽を集め
一町の著莪咲く坂を母の声
越辺(おっぺ)川山女透きたる細流れ
梅青実村の十代空広き
女滝男滝や夏鴬のとびとびに
昼蛙欲しいままにてみなみどり
行者塚滝音と古り青楓
虹鱒を暑き日と焼き奥武州
自転車の朝の三つ編み紺五月
昼蛙呼び合うも汗梅の村
げんげ片咲く田の残りいる滝こだま
過労の指紋新樹のひかり近づきぬ
セーラー服白にかわりてよりの雨
やわらかきことばの幾重青楓
炎日や滝のとぼしきことなども
バナナ一個朝げとなすも五十代
榛名太鼓やうす汗つどう故旧どち
麦秋や人権フェスタやや晴れつ
夏ひばり今日雲垂るる野菊の墓
柴又梅雨やぼけ封じとて箸売るも
葱畑の青丸刈りの少年ら
梅の実の太る空いろ矢切村
墨薄れぬ身売り証文青葉騒
世直しの鯰絵は彩汗しつつ
猫抱きし手の白き夏夢二絵の
筏ひとつが夢二浴衣に流れつく
若葉雨夢二の階のオルゴール
青胡桃彦乃二五歳その死後も
ヘチマコロンの唄あるも雨夢二館
大正は遠し老人語の幻灯
大正は涼し木版楽譜集
大正は涼し幻灯オルゴール
梅雨激しゴンドラの唄カチューシャの唄
鉄の音する小路白花夾竹桃
枇杷熟るる犬屋に犬のおもちゃ箱
梅雨のひとつの金権候補の笑むポスター
五十九歳逝く梅雨白き眉強き顎
根性の語と燃え好樹もう暑くはない
かの眼閉じられしのち梅雨の灯よ
「壮行」も人権のため梅雨いまだ
梅雨寒や義母動きいし桃畑
眼が薄くなりいて梅雨やひしめく児
被爆図のなかのおとうと花アカシア
花水木みつみつの語も五十代
徹夜つづきは放蕩に似て竹落葉
空缶ばかり増え梅雨ごめのわが街区
スカートの膝見ゆ丈も南風の母
梅雨果てず床屋に今日も少女顔
かの眉目梅雨打つ真竹どこにいても
ニ丁目の農園向日葵やや長けて
糸車ハルモニ昼寝膝立てて
むくげ散り咲く漢江の濁幾重にも
梅雨終わる銅羅や白磁のいろに空
農楽の眼の少年よかの無窮花
雨は夏オモニの叫ぶ市場口
雲早き日や紫蘇の実ともまるるか
街角のこの紅むくげ老いたるも
楸邨没後草木みみずも雨ためて
高速路下サルビア残花吹きさびて
野茨にやわらかき風雨後の丈
勝訴なるサルビアのいろ誕生日
雨の年サルビア寄りて咲き継ぐも
アカシアの花散る風に好かれては
鵯と遊ぶや五十半ばの腕にて
アカシア花散る「勝訴」二文字の歳月も
雲は秋「靖国の家」残されて
軍鶏いしと渡しありしと油蝉
朝顔や路地に百年住みし姥
万年青の実寝たきり静子さんいまは
ふうせんかずらかの路地静子夫人いま
佃九月や元祖本家も布団干す
佃堀とか日曜画家と鯊釣りと
月島の水や遠目に白芙蓉
いわし雲欅の幹の暗きとき
楽(がく)ならず車と猛り秋の雨
雨の子規忌や妻のテレビは眠らずに
写されるわが頭骨の冷や冷やと
雨はらはら父の湾なる投網打ち
唇薄き日の隅田川雁渡し
王政復古とや蝉時雨残る森
力士と小雨交いこの町の白芙蓉
産婦人科小児科知らずわれもこう
ちり紙交換です花水木今年の実
作るより生るる馬鈴薯蛇笏の忌
首重き日や台風の十九号
露草や区の荒川に犬二匹
八丈芒はいつも風生み昼灯台
ひかりはじまる岬の芒男の芒
晴れてしぶく霧笛信号所の鋲と
今日千円トロ一箱に秋刀魚照り
手鉤個々持ち市場のおんな秋短か
朝の凪海と分かたず利根河口
あなご・めごちと手鉤で指して市場びと
朝日市場や魴ぼうの鰭赤き秋
「女は地獄」外川語りの日焼けとて
虚子句碑の「朧」の夜は爽かにて
眉強き女や醤油の香も十月
香の十月醤油工場ひた歩き
あかのまま船絵馬地獄極楽も
芒短かは浜の男の丈昼岬
われより迅く桜黄葉の風立ちぬ
ぐずる風邪山茶花終いの花を見て
「わだつみのこえ」小選挙区制と黄葉し
酒場ひまです「冬物語」なるビール
夢の街にて銀杏落葉の寄りあいぬ
欅冬木は男の胸か乾く街
落葉と朝日越ゆ働くも学ぶ子も
酒つづく日や山茶花と会わぬ日や
紅うするるも寒椿また神田川
ひとと空と磨かれ木枯しの一号
大川澄むや一葉二五歳の冬の
手話と陽といちょう散りつくす時間
鴎冬羽根老いつつ大岡川と母
鈴懸の錆び葉どこにも旅に出ず
一葉忌葱一握のあたたかき
河幅や犬派猫派も冬晴るる
冬欅音恋しさの肌叩く
早番の寝起き顔妻冬林檎

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