鴎座 2001年8月          鴎座俳句会へ

鴎座作品       

泰山木の花か太穂か遠目ぐせ        倉本  岬
かたつむり肩こり性を受継いで
観覧車彼岸の見える菱の花
リュック背負う背の肉付きや花菖蒲
試歩いつも睡蓮白き目覚めどき        松浦  釉
えご散りし自然歩道にある余白
花栗や電話の鳴るは訃の怖れ
駅薄暑日時計今日は今日の誤差
白壁に手話の影ゆく夏つばめ        槙  麻子
蛍飛ぶ夜伽の村がふくらんで
鳥が来て人来て噴水たかぶれり
地下街に蕗の山積み楸邨忌
洋さんへひと抱えほどの草の花      斎田 史子
花束に青麦を入れさようなら 
青芒括りし手首脆きに
森に灯が今夜もほうほう青葉木菟
吉原つなぎの法被つながる神輿かな  中野 由美
精水機の磨ぎ水草へヒロシマ忌
佃朝靄誰かに惚れる浜昼顔
日盛りや変換ミスの振出しに
額の花ビーズのような青い嘘      杉浦 一枝
れんげ土手曇りの顔とすれちがう
蝌蚪五十匹二つ返事でもらいけり
楽園のめだかはじける速さかな
豆ご飯母の愛などうっとおし    鷲田  環
ヒトゲノム解読の日の大南風
こくりこの風もいっしょにEメール
ペンギンにふるさと問えば柿青し
保育園ペットボトルの風車     田原 知子
若草の根付いておりぬ師の墓域
ラジオ置く無人売場の夏野菜
  遠藤周作、ハンセン病の著に
梅雨の雷「私が捨てた女」ふと
二の腕の真白き少女弱冷房     白石みずき
カクテルのももいろ揺るる夏の月
パン・コーヒーただいまあじさい主役です
夫の忌のあじさいの彩さだまりぬ
涼しさや鴎の個性飛び立ちぬ    工藤眞智子
いい人をやめるは難し橡の花
アリスいし記憶苺のカレンダー
夫婦なりサスペンス見る蕗を剥く
でで虫に一枝残す花鋏       石口 光子
おも主菓子の彩買いにけり織部の忌
形式ごと蓴菜を食むふたりかな
精神科医六月の空へ開業す
朝顔の蕾ほどけて朝ご飯      木谷はるか
良妻と悪妻一夜夏切符
児を股に父の日の父すべり台
水風船びゅーんと伸びて栃の花
腹ばいの少女の背丈夏座敷     澤柳たか子
梅雨晴や人魚の国のメール来る
梅雨寒し花豆甘く煮崩れて
  大野美千代さんを悼む
梅雨の月瞳すがしく夫のこと  
したたかな女でいたい夏薊     小川 侑子
病名を貰う検診打水す
著莪の花錆朱の深き原爆図
憂きことを赤毛のアンやソーダー水
この家の女系家族に柏餅      松本 末生
残り鴨利根の河口を持て余し
鳥曇利根の河口の広さにて
妻の愚痴終るともなく遠蛙
制服の白チマチョゴリ日焼けいて  姉崎 蕗子
赤腹のくるりと返る夫の留守
牛乳箱のある家々や夏来ると
遠蛙山の湯船を溢れさせ
囮鮎ありと看板年金課       関 千恵子
伽羅蕗を煮返す香り嫁姑
付けられし名を演出の菖蒲園
ずっと隣空家なんです青簾     柴 さわ子
髪洗うワインを抜けば乱れけり
白玉や口三味線の江戸小唄
青柿や昨夜は近き喉仏       宮澤 知子
活断層蟻の出口をふさぎけり
汗のシャツ引っぱってもらう更衣室
走り書きとて十年日記さるすべり  古川 塔子
慰霊堂の灼くる砂利道深く踏む
コロッケの時間肉屋へ夕焼雲
たんぽぽは小さき掌のなか仮眠中  堀越 鈴子
羽抜鳥胸のどこかに山頭火
ビール傾け一病息災昭和一桁
石蹴りの輪より飛び出し夏帽子   田辺  花
蓮の葉の銀の玉粒雨上がる
葉緑素余さず透いて風炉手前
葉桜に血統書犬雑種犬       川村としえ
牛蛙の低音霧が田を離る
白菖蒲白ハンカチの薄さもて
送電線平野に下り麦の秋      松村とく代
線路より故郷の匂いたちあおい
風鈴のイロハニホヘト蔵の町
花菖蒲花名「美吉野」わけいりて  増田 萌子
揚梅の熟れ実こつんと飛行雲
猛暑かな赤き瓦に避雷針
夏蝶追う少女を包み込みて空    浜  千鳥
黒揚羽はりつくごとく漕ぐごとく
夾竹桃社宅只今午睡中
篝火草咲いて温度は上昇中     小原 良子
父と子の瓦職人梅雨に入る
七十歳のメル友がいる今年竹
国境を越えてふたつの滝に会う   北澤むつみ
滝しぶき滝のなかにも虹の橋
万緑や熊の母子にバス止めて
青紫蘇の香の残りをる器かな    大勝すみ子
あやめ咲きいつの間にやら吾子育ち
夏つばめ空路の旅に身をまかせ
景品のうちわに涼をもらいけり   野中 秀子
血の流れ耳にまつわる梅雨じめり
商いは一代限り墓洗う
天鼓また太穂をめでし遠花火    笹川儀三郎
遠花火太穂の選は祭酒
合力へ蟻の一声明けそむる
青岬プルサーマルにつづく道    江川 邑節
高倉健知覧ホテルの離陸音
梅雨荒れの仕手の摺り足春日竜神
頬こけし男と歩く遍路道      田崎十三子
山頂の宿に置かれし夏火鉢
床に落つ汗点々にジャズダンス
つかのまのコーヒー香る夏の蝶  樋脇 康治
葉桜に男ゆっくり女坂
眼科より手庇歩む春の昼
老鴬の重ね鳴きして風呼んで    大村 恭子
居すわりし微分積分初夏のこと
いい人をやめれば燕つんつんと
紫陽花を薄めて今日の爪の色    白石 菊代
緑雨ですブラウスほんのり染まりそう
わがままな毛先絡んで梅雨に入る
ほんのりと匂ひつけたり天瓜粉   芝原 郁郎
単衣断つ入道雲に急かされて
セル崩し我が身にちさきふくとなす
夕立の遣らずの雨やバスを待つ   森田 泰子
鬼灯市こまめに動く母の顔
西瓜切りて心の解ける職場かな
行商の婆の膝裏梅雨湿り      浅見 みち
身振り手振り足りぬ異国のハイビスカス
梅雨晴れの戸板一枚バナナ売り   小林みつ子
幟立て梅雨の晴間の鋏研ぎ
朝市の蟹・かに・かにと声高く   三宅 優子
夏空に見え隠れする岳樺
鎌倉は虚子忌に続く季寄せかな   原田多磨子
自転車に獅子独活の花照りかえし
鱧たべて祇園坂町旅冥利      岩田きみ江
春雷や鳥ちりぢりに子らちりぢり
こぼれ日を享け語りかけ半夏生   大貫富士子
懐かしき顔集まりぬ水羊羹

鴎座とともに 松田ひろむ

この場合、万感胸に迫るというという、やや時代がかった言葉がふさわしいかどうか。新しい「鴎座」の創刊は、そんな思いが幾重にも重なる。
新たに同人・会員に参加いただいた方の思いも同じく複雑なものがあるだろう。
とまれ俳人は作品でこそ、その真価が問われる。そんな「鴎座」の作品について、太穂先生の雑詠評の「同伴者の独語」にならい、厳しくあたたかく、同伴者としてともに考えて見たい。

泰山木の花か太穂か遠目ぐせ   倉本  岬
 
太穂研究会が発足して、大川端句会の小吟行である佃島、月島の散歩も定例化した。そこここに太穂先生の面影が重なる。私もこの句と同じように、「缶ビールの遠きまなざし額咲いて」と書いたが、岬さんの句は「遠目ぐせ」ととらえて味わい深くなった。タバコ火、缶ビール、遠目、晩年の先生はじっとどこかに思いをはせていた。
同じ岬さんの「かたつむり肩こり性を受継いで」は、やや軽く詠いながらも、カタツムリの季語が作者と同化していることが楽しい。

試歩いつも睡蓮白き目覚めどき  松浦  釉

病いと闘いながらというよりも、病とともに生きている作者だが、作品はいつも陰影を帯びて深い。この句も睡蓮の白さに自己を重ね合わせて、試歩の足音が聞こえてくる。
「えご散りし自然歩道にある余白」も、余白がしっとりとした潤いを持って明るい。「駅薄暑日時計今日は今日の誤差」も、「今日」が効いている。

白壁に手話の影ゆく夏つばめ   槙  麻子

「鴎座」に参加するにあたって、決意も新たに俳号を改められた方も多い。彼女もそのひとりだが、同人作品よりも雑詠「鴎座作品」で競いたいという気持ちがうれしい。
この句の白壁は手話の影も夏ツバメの影もともに写っているのだろう。手話の語らいと交差する夏ツバメがすがしい。
「蛍飛ぶ夜伽の村がふくらんで」は、やや難解。つまりは「夜伽」の一語をどのように解釈するかが難しいのだ。「夜伽」には(1)病人の看護、主君の警備などのために夜通し寝ずに側に付き添うこと。(2)女が男と共に寝て相手をすること。(3)お通夜などで夜通し起きていること。また、通夜。(『大辞林』)の三様の意味がある。 病人の看護やお通夜では常識的だが、(2)とも考えづらい。ここはそれぞれのイメージに任せるしかないのだろう。

洋さんへひと抱えほどの草の花  斎田 史子

山谷の俳人として知られていた森洋さんの追悼句だが、この句はなにより「洋さん」という呼び掛けに実がこもっている。「花束に青麦を入れさようなら」も、胸を打たれる。
この一連はいつもの史子さんの知的操作を抑えていて、それがいいのだ。 
 
吉原つなぎの法被つながる神輿かな 
中野 由美
「吉原つなぎ」とは、四角形の四つの角を削った形(八角形)をつなぎ合わせた文様のことで、黒っぽいものが多く、浴衣や法被あるいは風呂敷の柄などにする。いかにも江戸の粋というのだろうか。そんな江戸っ子の神輿を「つなぎ」「つなぎ」と重ねて見詰めているのだ。
「精水機の磨ぎ水草へヒロシマ忌」も、「精水」が面白い。精水とは水道の浄化器と考えられる。「日盛りや変換ミスの振出しに」と同じように新しいものにいつも挑戦しているのだ。

額の花ビーズのような青い嘘   杉浦 一枝

額の花は青いのだろうが、それを「青い嘘」と感覚的にとらえたのだろう。「ビーズのような」が姿をしっかり把握して、感覚に流れない確かさがある。

豆ご飯母の愛などうっとおし   鷲田  環

おそらくは作者自身の母のことではなく、子供から「うっとうし」がられている母なのでしょう。それが正直なだけに、情が伝わるのです。
「ペンギンにふるさと問えば柿青し」も味わい深い一句。
 
ラジオ置く無人売場の夏野菜   田原 知子
 
無人売場の句は多いが、ラジオを置いて新鮮な句となった。

この他にも次の句など触れたかった作品だった。

パン・コーヒーただいまあじさい主役です
白石みずき
涼しさや鴎の個性飛び立ちぬ    工藤眞智子
形式ごと蓴菜を食むふたりかな   石口 光子
児を股に父の日の父すべり台    木谷はるか
腹ばいの少女の背丈夏座敷     澤柳たか子
したたかな女でいたい夏薊     小川 侑子
囮鮎ありと看板年金課       関 千恵子
ずっと隣空家なんです青簾     柴 さわ子
この家の女系家族に柏餅      松本 末生
青柿や昨夜は近き喉仏       宮澤 知子