鴎 2001年7月  鴎俳句会へ

鴎 作 品       選評 松田ひろむ
午前午後草刈る音か耳鳴りか    古川 塔子
ほととぎす秩父札所の昼の晴
愛されるひとでありたい金魚玉
カルメンという名の薔薇と知りて剪る
少女期の日記退屈草矢打つ

頭上の鯉の体力築地小学校     倉本  岬
ぞうさんぞうさん唄えば一歳の足裏
晩年にかならず来ると白牡丹
ハンカチの樹背高のっぽが卒業期

草いきれ紙に貼りつくチョコレート   鷲田  環
さつき展女はいつも爪を研ぐ
美しき日本の敬語桐の花

走り梅雨ふきんざぶざぶ洗います
塔子さん-俳句は自分をいかに正直にさらけ出すか。それがようやく感じられるようになりつつある。「草刈る音」と「耳鳴り」を重ねている最初の句も、「愛されるひと」と大胆に言い切る思いも、そうした俳句の重さ、深さであろう。俳句は年輪を重ねていよいよ面白くなってくる。
岬さん-このところお孫さんにこだわって楽しい作品が多い。「ぞうさんぞうさんは」そうした一句、この句は良しとしても、やや孫俳句らしいパターン化が気にもなってきた。これからが踏ん張りどころ。一句目の破調も試みとして許容できるものだ。
環さん-今月からの初登場だが、なんでもない「チョコレート」や「さつき展」にしても、事物の切り取り方や把握にいかにも俳句らしい鋭さがある。「ふきんざぶざぶ」もいかにも生活感があって好ましい。

荒川のふと野苺とわかるまで      増田 萌子
田植後の父似母似の談義かな
初蝉の耳疑わず耳澄ます
草笛を吹けばあめんぼ増えている

露天風呂の手足ひらひらひら五月   石口  栄
母の日の母の投球子が返す
「飛景」祝ぎ獅子のふれ行く春衣
白杖の五月の歩道音と音

七十路のジーパンの群芹の水     木谷はるか
蛍光ペンの傍線ピンク夏期日程
蒔き時の花種探す小半日
夏便りかしこと結び電子辞書

・萌子さん―身辺がていねいに詠まれている。まだ技法とか表現という前に、眼差しがしっかりとしかも温かい。「初蝉」も実感がしっかりと書かれている。最初の句の「野苺とわかる」までの単純さのよさ、不思議さ。「草笛を吹けば」も、読み返して味わい深い。この場合、季重なりをいうのは形に拘り過ぎ。
・栄さん―女性陣優位の中で熱心に学んでいる頼もしい男性。「露天風呂」「白杖」とも少し手を入れたが、視点はしっかりと定まっているだけに、もう一歩だろう。「母の日」の句は、なんでもないことだが、こうした微妙な感覚だ出てきたことにも注目したい。
はるかさん-このところ好調を持続している。お年のことはいわないが「夏期日程」や「電子辞書」にしても、言葉の選び方が新鮮で鋭い。なかでも「かしこ」から「電子辞書」が出てくるのには驚かされる。俳句の飛躍や、取り合せが分ってきたのだ。
えんどうの花が咲いたよお父様    小高 沙羅
母の日や子供四人を一人占め
一晩中寝ない子ばかりメロンパン
ベランダの三つ葉を添える不意の客
かたかごの一輪住めば晴れてゆく   堀越 鈴子
すかんぽやいつから男のおんな眉
山の気の満ちて竹炭窯を出る
雲になるのんちゃんになる母の日は
硯箱開けぬ日のあり青嵐       白川 温子
早苗饗やひと言ですむ昼の飯
せいいっぱい嘘つくわたし大手鞠
呼吸あげて牡丹きざはし階初瀬晴      菊池 志乃
欅緑雨定禅寺みちピアノバー
噴水のリズム乱しむ油南風
沙羅さん-句会の中では、目立たないが、読み返すといつも何句か見落としたと思う句が多い。それはさらっと書き流しているからかもしれない。「えんどうの花」はなくなられた父への思い。「豌豆の花」が動かない。
鈴子さん-「かたかご」はかたくりの古語。「住む」は誤植ではない。住み付いてこそという意味だろう。これはきれいごとに流さない作者のしっかりした意志。「すかんぽ」は批評精神はいいとしても、やや理に流れるのだろう。素材への挑戦は買いたい。
温子さん―力のある方がまた参加された。すでに俳句の方法は持っておられるが、類型感がないことがなにより。なかでも「早苗饗」は、いかにもと感心させられた。おそらくは「めし!」のひと言。「硯箱」は青嵐がそれなりに即している句。
志乃さん―一句目は「呼吸あげて」がポイント。「定禅寺」は、固有名詞独特の強み、ピアノバーに心をひかれるのも、心の若さなのだろう。
青葉騒鳥語の辞書がばらけている  中野 由美
夢道居の茶の間奥まで枇杷二階まで
新樹来て「天狗テーラー」蛭裸灯
浮き苗も藁もつれだす梅雨出水   川村としえ
はればれとクジャクサボテン咲きました 
春に病む飲まぬ薬を嘘ついて
霧雨の匂いの先の牡丹かな     白石 菊代
日曜日の初夏の匂いの深呼吸
繰り返す鉄棒少女夏来る
朝顔の種と個展のお誘いと    工藤眞智子
いっせいに発芽ゴッホのひまわりは
おのこ三おみなひとりや新茶汲む
新茶のむ海向く畑の薄みどりし   能美 澄江
思うこといつも菱形雷激し
薔薇一輪くるくる廻す長電話
新茶汲む反面教師の母いし座   松浦  釉
山女釣る餓鬼大将の今日の貌
踏み場なき杉菜や同窓ひとり逝く
落柿舎より入選の報燕来る    石口 光子
夢の端のことり牛乳窓若葉
面識のなきひとの喪や梅青む
病食の塩分足らぬ野蒜和え    松本 末生
じょんがらに流れ止めたる花筏
地酒売る小町通りの実朝忌
調律師梅雨入り前の音探る    白石みずき
杉の木の水吸う音や聖五月
園児と犬同じ目線や街薄暑
逝く春の二歳児胸が走り出す   姉崎 蕗子
黄菖蒲の前を諍い通るなり
リライター春の歳時記伏すままに
苺描く狸の筆の墨流す       大村 恭子
豆鯵の南蛮漬や葱もいい
広重の空引き寄せて青嵐
指ゆるみたたくピアノや朧月    浅見 みち
蚕豆の色煮すっきり舌にして
繰り返し繰り返し諳んじ花曇り
かたつむり下校の子供連れてゆく  沢柳たか子
蜜蜂と湯呑三つ四つ辻地蔵
眠たげな狛犬の背走り梅雨
チユーリップの蕊は紫義理姉妹   杉浦 一枝
人形の射的はずれし薄暑かな
葉桜のみくじ小吉鳥居の朱
水売りの君は似ていし兵馬俑   宮澤 知子
青い空卯波小波とひとつ風呂
真夜中に出すしわしわの夏帽子
萍の幼な顔なる背伸びかな    松村とく代
ふと会いし視線のその後まむし草
耳底の奏楽止まず聖五月
駅二つある鎌倉の濃あじさい    山本 吟石
  悼 森洋さん
走り梅雨森洋さんさようなら
問われたるこの花の名は海?豆 
つばめくる忍野八海行き止まり   小原 良子
新築はバリアフリーよ桐の花
野を探す阿蘇中岳の揚げ雲雀   江川 邑節
春高楼の廉太郎若きと並び立つ
目瞑りて筍山の鍬の音      関 千恵子
ビーナスとモナリザのいる館涼し
眼科より手庇歩む春の昼     樋脇 康治
ほほえみの遺影抱かれ風光る
望郷のとなりのつつじ燃えており   原田多磨子
白い蝶ひらひら大樹ふところに
いつのまに不動縁日葉桜に     森田 泰子
今日の日は雨に煙りて柿若葉
頓首して水を乞ふなりとかげの子  芝原 郁朗
惜春や鰯を食ひてもの云はず
子燕を見上げる子らも口あけて  野中 秀子
簗を背に葭簀の小屋の鮎づくし
手話の手のこころを保つ若葉雨   田崎十三子
桐の花まっすぐ降りててのひらに
娘よりメッセージ付け百合の花   三宅 優子
五つ開いて百合の蕾の部屋明り
春風邪のそろりそろりと猫歩き   北沢むつみ
ややななめカサブランカの芽吹きかな
梅雨めくや相遭うときも人の黙  大房 隆夫
覗き込む猫を映してサングラス
煙る雨泰山木の花溶けて     中川比左子
すいかずら腕組み合って風招く
青竹や一節ごとに天を突く     小林みつ子
メトロ出て母子夏めく急ぎ足