鴎 2001年4月
鴎俳句会へ
| 鴎 作 品 選評 松田ひろむ | |
| 下萌えのやさしさを抜く割烹着 木谷はるか 枝ぶりは女という字梅三分 爺の撒く灰の加減に初桜 「外にも出よ」汀女のぐるり梅真白 お手玉を放つ春色ひいふうみい 風花や似顔絵ここにつけ黒子 小平 湖 一本は捨て句に灯し花薺 石神井川の花の氾濫耳鳴りす 採血のゴムの勝気や花菜畑 太穂を語る瑠璃子先生桜いろ 子を叱る声はくれんの落つるかな 姉崎 蕗子 春風のここら限定販売所 かたくりへ屈みし影の看護帽 独活膾頒つナースコールの鳴る間 |
はるかさん―「下萌え」は「やさしさ」と把握して親しみ深い。ことに割烹着がまさに生活感覚。「爺の撒く」は、花咲爺だがそんな昔話もいまは奇妙に懐かしい。「外にもでよ」は書いてあるように汀女の句を踏まえて自身の句としている。どの句も一歩踏み込んだ表現に心を砕いていることが好ましい。 湖さん―なにげない生活のさまざまが独自観をもって読まれている。「太穂を語る」は大胆な表現だが、瑠璃とさくらの対比などを超えて、さっぱりとした明るさがある。 蕗子さん―「春風の」は省略の効いた好ましさ。春風が販売されているようにも読めそれがまた楽しい。ナースコールなど職場の作品もいよいよ陰影を深めてきた。さらに時代の典型を目指すときがきたようだ。 |
| 小橋渡れば枝垂桜の触れたがる 中野 由美 浅蜊炊く「天安」の湯気薄闇に 勇みたつ鰹塚ややおぼろなる 春惜しむセーヌと遠目に少女像 縁起屋の石買うわたし雪解川 杉浦 一枝 春蘭の鉢と一緒に夫とどく 雀百まで大内雛のたれ目かな 春大根葉付きはいつも地べた市 師の声の花ひめうつぎ芽吹きそむ 工藤眞智子 花韮や言葉の途切れぎごちなく 少女期をそれぞれ口にいぬふぐり 蕗の薹沢蟹一家まだ覚めず |
由美さん―「小橋渡れば」は、佃小橋のことだろうが、「触れたがる」といって自己にひきつけることが出来た。「勇みたつ」も「おぼろなる」が発見。「浅蜊炊く」は佃島天安の佃煮工場の景。「薄闇に」がなんとも効果的だ。 一枝さん―「春蘭」の句が大胆な表現で思わず笑える。「夫」も苦笑というところだろうか。「縁起屋の」などもややはどたどしい表現ながらこころの自在が見えるところが好ましい。「春大根」はすこし手をいれたが、しっかりとした作品。全体的に巧拙を越えた勢いが感じられる。これも俳句に集中している賜物だろう。 眞智子さん―女性の心理はいつまでも分らないが「少女期を」などは、そんなものかと思わせるところある。これも実感の大切さ。 「沢蟹一家」は無条件に採れた句。こんなことも作者の気持ちが「すっと」読者に入ってくるからだろう。 |
| 強東風や先生の富士大いなる 澤柳たか子 初音して徳丸いまに農の影 雪柳風に吹かるる少女かな 手で閉める電車のドアー春の昼 さがり梅午前六時のカメラ位置 小高 沙羅 恋猫と招き猫いる定食屋 七彩の薬の後の根深汁 草団子おんなの昼はしゃべるだけ もうちょっとばかりの句なり花の冷え 小川 侑子 草餅や月島熟女あるがまま 名作の墜道抜けし春の雪 住井すえここで寝まるか春寒し |
たか子さん―「強東風や」の先生は当然、太穂先生だろうが、そのように限定することもないだろう。ここは「大いなる」と言い切って快い。「風に吹かるる少女かな」も大らかな省略が効いている。 沙羅さん―「恋猫と」は、ありそうでだれもが読んでない面白さ楽しさ。「七彩」は、現代の薬漬けの一面だけでなく、自己の年輪に思いを深めてもいるのだろう。「さがり梅」などもちょっとした日常の感覚を巧くとらえている。「午前六時」は事実でないとなかなか詠めないものだろう。 侑子さん―「もうちょっと」は、私の講評の口癖かもしれない。こういわれると、もっとその作品に沿ってていねいな批評が必要だろうと反省させられる。しかしこのように率直なことも大切。いうまでもなくここでは「春寒し」が「もうちょっと」なのだ。「草餅」はなんといっても「熟女あるがまま」が好ましい。「名作」は、天城峠か「雪国」か。こうした省略も大切。 |
| 落椿拾い終わりし朝餉かな 関 千恵子 芹摘むとかがめば川の面光る うしろ手に山焼きを見る新世紀 光る海遠くに見えて花の雨 まんさくや袱紗汚れを景色とし 石口 光子 菜の花や江ノ電まるごとゆりかごに 賞味期限のない夫婦にて春田打つ 手配写真はがれて逃げる春疾風 母の背に弟がいて布海苔漉す 堀越 鈴子 三せき尺の童の丈よ梅開く 山靴と杖と私の紫蘭咲く 雛より便りの届くパーティです 火山列島地虫ゆっくり住み替えぬ 能美 澄江 「嫁をとる」とは古いことのっぺい汁 ライオンキングの母のふところ雪柳 標高五百春のショールを巻き直す 古川 塔子 息かけて塗り碗拭くも春うれい 一抱えの日本武尊碑養花天 剪定の思い切りよき女かな 白石みずき 六県をまたぎ淡雪奈良に入る 砂時計くるりと返し花便り ひたひたと五百羅漢の夕霞 宮澤 知子 犬ふぐり星の涙と思ひけり 呼ぶ声の大きくなりし山霞 見廻りの猫とは馴染み木瓜の花 川村としえ 大根の花が大好きミシン踏む 春霞魚臭き手でスーパー出る 滝広場花に先駆け花名札 三宅 優子 ひなまつり娘作りしひな寿司を 朝刊のクイズ答を「菜の花」と 新茶情報ビラの緑へ来るあした朝 笹川儀三郎 変身に炎える人みな影がない 一鉢の春蘭室に文人画 とりどりの方向く蘭の自由とは 浅見 みち 梅林にゆるめの帯の右上がり 桜餅体で泣く子そり返り 地球かぎろい氷河期が早まるか 石口 栄 黙秘権解きとも今日の梅開く 誰吹きし地球は青い風船玉 甲斐の春水滴琴の音にひびき 北澤むつみ 白マスク同士が出会う花粉季 春霖や真紅の薔薇の傘をさす 履きなれし靴に転びし今朝の雪 松本 末生 梅尋ね梅ほめてゆく老夫婦 芽吹くものかすかに見えて柳町 肩こりのいつ溶けてゆく春の服 白石 菊代 春の昼煎じ薬の匂い立つ 重ね折る千代紙雛ひとりごと 金盞花線香添えて売られをり 田崎十三子 鶏のごと花びら踏みしにわか雨 花びらに飛びつく童墓参道 お品書き中ほどにあり野蒜和え 柴田しげ子 梅郷の生活も盛り梅日和 佇むに初音いよいよ正調に みちしるべの欅大樹や鰆東風 菊池 志乃 単線二両の電車花菜畑とろり 入学期のAIBO耳立つ「葉っぱのプレディー」 花冷えの自販機いまだ保温中 山本 吟石 明日咲く芸亭桜師は待たず 花冷えの茣蓙に替わりし青き幕 親族もなき療養や春惜しむ 大房 隆夫 垢抜けぬ顔して闊歩春の風 飽きもせず読書タイムや春の朝 春くればものこそ思へ諏訪の月 芝原 郁郎 喜寿までも疱瘡のあと冬の蝶 チョット来いともいわれずに春の丘 あじさいの新芽舞うごとねじれ幹 大野美千代 かたくりのうなずくような傾ぐ頚 日だまりに白梅をおく三回忌 日の暮れてままごと菜花おきざりに 谷 純男 パソコンの画像の乱れ春の風 ぽつぽつとEメール打つ夜半の春 野中 秀子 雪形はまだ現れず嫁菜摘む 花水木人の思ひも濃と淡 旭 じゅん 普羅の寺天水桶に花の舟 お大師に飴切り囃子冬の天 樋脇 康治 法要のアルバムまわる冬座敷 雪解川カヌーつぎつぎ岩捌き 増田よし子 土筆群れ園児も群れる日和かな 春塵や家の中まで日射し来て 木檜 和久 仏壇に供花一輪の春寒し 十人の焼き藷食べる花見かな 江川 邑節 蕪村展菜の花の波人の波 宇野千代の記憶ひとひら着る桜 大村 恭子 美容師にカットをまかすシクラメン 初夢や大仏のてのひらに乗る 赤沼 美子 湯豆腐の半分づつの夕餉かな 光浴び微笑み交わす菫かな 中林たつ子 鬼怒川の土筆のたより友等いて 彼岸墓無性に母が恋しくて 池村 良子 母よりも年上になり彼岸餠 野遊びのこころやすらぐ齢かな 大勝すみ子 初蝶の花から花へ舞いもつれ 白きもの着ている不安雨蛙 原田多磨子 廃校は老人ホーム春浅し |
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