鴎 2001年3月  鴎俳句会へ

鴎 作 品       選評 松田ひろむ
太穂慕えば逃げる二月の羅針盤   小平  湖
父を語るに父似の面や佃東風
羅紗鋏のなじみの音や春隣
腰に手袋土手マラソンの日和かな
ちゃん付けの犬に恩着せ春炬燵


囀りや厨ふたつの嫁姑        古川 塔子
早春や犬派猫派のアンケート
黄梅や路面電車が尻振って
初蝶や催眠術師近づきぬ
椿落つ泣きじゃくる子の指鉄砲
湖さん―「太穂慕えば」の句は、いろいろに読むことができるが、先生没後の切なさは、だれもが共有していること。考がえさせられる句。「父を語るに」は、太穂研究会での耕二さんのことだろうが、もっとひろがりがあることがいい。「ちゃん付けの犬」の句は、なんとも楽しい句。これも「恩着せ」の措辞が効いているのだ。これも実際に犬と暮らしていないと出来ない句。
塔子さん―「囀りや」の句だが、「厨二つ」というのはよくあることだろうが、「嫁姑」と置かれると複雑な関係も連想されしっかりとした句になる。「黄梅や」「初蝶や」の句も、身辺を感覚的に明るく切り取って好ましい。上五名詞プラス「や」がつづいたがこれは一考を要するところ。
絵手紙や重たき春の雪払う     堀越 鈴子
宿題の分数はまだ冬苺
寒漉の和紙ほろ苦きさ緑に
髪切って末黒の芒に逢いに行く
熱海ざくら淡しニュースのそのあとに 白石みずき
五粒ずつ撒いて拾って「福は内」
寝たりたる顔の土筆のうすみどり
午後五時の街はリラ冷え深呼吸
だんだんに杉菜遊びの乳母車     姉崎 蕗子
真っ直ぐに消えてしまいしまつむしり松毟鳥
夫遠し行者にんにく大蒜などのまた
啖呵売行者大蒜名の由来
濡れている梅一輪や水彩画      能美 澄江
鬼の足くすぐる日差し枯木山
ふりふりと廻る粉雪嬰あやす
宇野千代の栞移しぬ春の季語
鈴子さん―「宿題の」は、いわゆる孫俳句かもしれないが。それを超えた一句。「髪切って」は女性にとっての「髪」を考えさせられるが、句の広がりは「末黒の芒」という季語の発見にもよるところが大きい。
みずきさん―「熱海ざくら」は、テレビのニュースでということだろうが、説明を大胆に省略して俳句になった。「五粒づつ」もいかにもといった感じがあって。これも好ましい。
蕗子さん―「だんだんに」は、原句「先々に」を、添削して見た。原句の素朴さも悪くはないが、この句はもう一歩深めてみたいところなのだ。「行者大蒜」は、その名前に惹かれての句だろうが、それぞれ「夫」「啖呵売」と組み合わせて味がある。
澄江さん―どの句も明るいがなかでも「鬼の足」は、広がりがあって心の中まで広くなる句。「宇野千代の」は、歳時記という言葉を省略しているが、よく分る句。またその省略によって大きな句となった。
氷柱落つ落ちたる音にまた落ちて  増田よし子
美女五人紅梅いずれべに口紅の濃し
野焼かな関東平野まる見えに
野兎のまぶしさに消ゆ深雪晴
約束の百まで生きず冬晴れに     小高 沙羅
猪鍋や二十四時間父のこと
素焼き鉢スプーン一杯分の雪
聖路加の小径太穂とかげろうと
大漁旗風に舞わせて目刺売り     松浦  釉
凧点となる大利根の茜雲
犬ふぐり風出て最終講義の日
杉の香の絵馬からからと梅真白
よし子さん―「氷柱落つ」は、ていねいな写生。「美女五人」は紅梅の連想。「野焼きかな」は金子兜太の「暗黒や関東平野に火事ひとつ」に通う大胆な表現。いずれも俳句の幅が大きく膨らんだことに注目したい。新たな資質の開花が期待できる。
沙羅さん―「約束の」は、お父さんへの追悼だが、独自性がしっかりとしている。これも父への思いが裏打ちされているからだろう。「素焼き鉢」はきっちりとした写生。これも大切なこと。
釉さん―いつも安心して読める作品。「いぬふぐり」の句は、「なにがなにして」などといわず「最終講義」だけに焦点を絞りこんで、つまり単純化して成功した句。「凧点となる」は大きな景。俳句は大景を詠むことは難しいがこれは成功した例。「杉の香の」は、やや手馴れたところに留まっているようにも思える。
由美さん―初投句だが、「小橋渡れば」の句にもっとも惹かれた。期待が膨らむ。
指箸に香の染む佃春浅し     中野 由美
陽炎は師とも大川風のやや
小橋渡ればしだれ桜の触れたがる
春うらら枇杷の小坊主多産系
糸瓜束子か小学生の編むマフラー  澤柳たか子
春立つや電動鋸の遠くより
海苔簀干す十二三枚花鉢と
野水仙はふところのなか岬道
立春や庭に飛び込む白ボール   杉浦 一枝
逆立ちの得意な娘雛あられ
猫が爪研ぐ木の幹や春浅し
寒明けや柵に塗り足す青ペンキ
訴うる大事あるごと水草生う   笹川儀三郎
芦の角淀水域を漁婦の声
鳥帰る露和大辞典卓上に
寒凪の子供またがる旧砲弾     樋脇 康治
点滴のとれて寝返る春隣
熱燗や磯湯土産は一夜干し
風もまた影となるもの春の服    大村 恭子
嫁ぎたる娘の部屋広し菊を挿す
蔦の芽のみな吾にむく雨上がり   
越後より来し嫁自慢のっぺい汁   石口  栄
春浅し回転木馬の空回り
宇宙より見し地球また寒の月
春の鳥トンネル経由のバスに乗る  工藤眞智子
マフラーの少女ふつうの猫につく
囀りのままに欅の齢かな
紅梅のことさら多し結びくじ    関 千恵子
春浅し俳句王国より嫁が
海苔掻きの岩渡り行く軽き音
茎立ちや認め認めぬ遺伝子論   石口 光子
牡丹の芽「学級崩壊」など辞書に
ココア飲む家の白梅まだ三分
春の豆「鬼になってよお母さん」  木谷はるか
豆打ちの鬼の居座るおもちゃ箱
剥げかかる塗碗の鶴春霙
柚子の香に真綿のごとく眠りたし  小川 侑子
無為の日と埃の嵩や日脚伸ぶ
潔く落ちて語らず寒椿
鼻水のすすり和らぐ賢治村    浅見 みち
吹き溜りの地蔵に爺の笠あげよ
一歩乗る聞く二三歩の霜柱
夜半の春AIBOも顎を出しにけり 菊池 志乃
強東風にあんこ椿の島ちかむ
雛飾る苦言たたみし亡母の在す
微熱また通販雑誌の春いろに   白石 菊代
身軋みつ二月の地軸回転す
外は風大根ゆらり透きとおる
こだわりの目刺作りの爺と孫  旭 じゅん
梅が香や夜の静まる屋敷林
耕耘のリズム単調野の遠見
点滴の赤き椿か雪まとい     森田 泰子
都会っ子の雀の三里雪だるま
冬荒れの味覚変わりし舌の先
膝曲る都会の雪のミステリー    村田紀久子
ランドセル攫ってゆくか冬嵐
やわらかな光のなかを雪舞えり
節分草あり物納の屋敷林     江川 邑節
盥ごとビルの谷間の春の月
やがて咲く芸亭桜一周忌     山本 吟石
春分の生花店舗のお花畑
手に息をかけて温もる初氷   北澤むつみ
年豆の年の数ほど食べられず
ジョギングの春を両手に受け止めし 田崎十三子
辛夷の芽見上げる空や明日晴
風二月インド料理の店了る    柴田しげ子
真っ直ぐについばむ鳩や春の土
ぼたん雪支えきれずに葉千両   広井 久子
商店に琴の音流る水仙花
春風を白線上に園児靴      原田多磨子
彼岸花待つ師の墓に寄りがたし
床の間の生花の柳芽吹きおり   三宅 優子
春の色添え並びおり春の店