鴎 2001年2月
鴎俳句会へ
| 鴎 作 品 選評 松田ひろむ | |
| 初富士やスタンド店員深お辞儀 小平 湖 飼育当番片言鳥語深雪晴 オカリナを吹き二代目の渡り漁夫 下の子の父の背越えし木の芽和 春闘や写真の夫の束ね髪 わたしだけ口一文字初写真 倉本 岬 間があって風邪気味母の声三日 粗相した猫には猫のお元日 煩悩の鐘が鳴ります煮大根 中年の恋占いに椿餠 諍や付かず離れず達磨市 木谷はるか 濁声の犬猫ここまで初詣 からからと枯葉へ走る三輪車 泥雪に遊びの手立閻魔堂 飴細工饒舌の間に蝶生まる |
湖さん―お正月の句と、希少季語の句があるが、やはり「初富士」の実が好ましい。「深お辞儀」が見事に姿を捉えている。「オカリナ」の句は「渡り漁夫」という最近ではなかなか実感に乏しい季語だが,このように書かれるとなるほどと思わせる。 岬さん―どの句も日常が明るく切り取られているが、なかでも「間があって」の母の句に感銘した。「煩悩」の句も楽しいがやや俗に流れるだろうか。俳句は実の感動が根底にないと、本当のことも嘘のように思えるから恐ろしい。「わたしだけ口一文字」は、一つの発見、感動。 はるかさん―身辺がていねいに詠まれている。もっとも最初の「諍」(いさかい)の句のように明るいことにだけ眼を向けているわけではないが、どの句にも作者の眼差しの明るさを感じるのだ。 |
| 貶されてばかりの日なり冬木の芽 古川 塔子 自販機の「あったかい」音細雪 喉ぼとけのよく動く日や渡り漁夫 昼焚火鳶見習いの文庫本 北窓を開けておもしろ子育て期 書初のお転婆姿ふとそれて 大村 恭子 鮟鱇の口ほどになし目が二つ 自由なりカフェ・オーレ息白く立ち 湯豆腐や福耳ゆらり膝くずし 枯山頂の三百メートル新世紀 堀越 鈴子 元旦や我輩は猫のゴミに逢う 雪形の種蒔き爺や鎌を研ぐ 菱餅や十八歳の母ならん |
塔子さん―「貶されてばかり」は俳句になっているかどうかだが、思ったことを言い切ったことが大切なのだろう。「北窓開ける」も希少季語への挑戦だが、「子育て」も「おもしろ」といってこれも追体験としての実感なのだろう。「自販機」の句はすでにないわけではないが、「細雪」と押さえてしっかりとした句になった。 恭子さん―同じ日常といっても恭子さんの場合は感覚が鋭い。なかでも「鮟鱇」の句は「口ほどになし」ですっかり感心させられた。「自由なり」は原句の上下を逆にしてみたが、これも鋭い感覚。「湯豆腐」も「膝くずし」で姿となった。 鈴子さん―山が好きな鈴子さんだが、やはり新世紀は三〇〇メートルの山頂になるのだろう。これも庶民的な感覚。元旦の句も猫という言葉を消して「我輩は」といった手柄。「菱餅」も「十八歳の母」といわれて、現実が見えてくる。地道な努力がふっと詩語に触れてくるのだ。 |
| 総務省の赤いバイクや初便り 石口 栄 双六の一振り千里旅終る 減反の百年の土地杉植うる 寒鴉すとんと降りて影たたむ 寒造りの糀つぶやく土不踏 松浦 釉 明日は明日今日の四温の旅に発つ 雪しまく姉の葬りの日の列車 大樽の酒の熟睡寒三日 薬屋のおまけは干支のみどりへび 小高 沙羅 五時間の時差ある夫婦木の芽和 初凪やワイングラスにある夕日 春袷ちがう自分になりたくて |
栄さん―「総務省」という言葉を使った俳句はおそらくこれが最初だろう。それも郵政という仕事ならばこそだが、一句としてはまだ単純だろう。対して「双六」の句は「一振り千里」がいかにもと納得させられる。「寒鴉」は「影たたむ」まで表現してきっちりとした写生になった。これも大切なことだ。 釉さん―きっちりと俳句の形を守っていられるが、「今日は今日」の句は「風とともに去りぬ」のスカーレット・オハラを感じさせられて感心した。絶えず形に入りて形を出でよ、なのだろう。「寒造り」の句は実際に見られたのだろう。「土不踏」「熟睡」など人間に返ってくるところが良い。 沙羅さん―「薬屋の」は、なにげないようで楽しい句。「みどりへび」という具体性がいい。「五時間の」は、最近の夫婦とりわけある程度年輪を重ねた夫婦の姿が見えてくる。「木の芽和」で明るいが、それだけでないことを考えさせられる作品。 |
| 十年の日記初墨楷書より 菊池 志乃 寒日和偽三彩の荷のらくだ 湯けむりにしきりなる雪軒雀 愛想の炉端に焦げる五平餠 山川に雪降る砂場田のなくて 能美 澄江 菱餅や今日の練習逆上がり 文鎮の重さ北窓開きけり 昨日ひとつ今日ふたつ星寒に入る コーヒーを両手で包む寒の朝 白石みずき 子離れの出来ない私毛糸玉 東京の雪踏むことも新世紀 菱餅やまんまる嬰の土不踏 寒風や家出の犬の少年期 工藤眞智子 自己を詠む俳句の道を恵方とす 襟巻に個性を託す高校生 蝋梅三分猫のとび出す日和かな 澤柳たか子 七種やDNAの気になる日 産土の木の芽焼なる五平餠 七草の寄せ植えひとつ診療所 浅見 みち 一行の添え書き筆の賀状来る 水仙の揺れゆるやかに胸に寄る 絵手紙の柚子届きおりでこぼこに 松本 末生 愚痴を聞くだけのいたわり初電話 浜焚火大船頭が来るまでの 新世紀やっぱり同じ雑煮味 杉浦 一枝 ジェット機の乱反射せり初御空 居眠りの数の一人や初電車 栗きんとんふつふつ煮えて甘き家 小川 侑子 人嫌い多摩湖の水鳥ど真ん中 幸運も不運もなくて白菜漬 雪白く白鳥白く瓢湖かな 北澤むつみ 白鳥の瞳のなかの故郷かな 初窯の織部色濃く流れおり 休日のふつふつ煮豆雪催 増田よし子 梅林の奥より冬日ベンチまで 八重椿こらえています寒気団 底抜けし空より来る雪うさぎ 柴田しげ子 いまさらの学業成就初詣 小寒の富士まうしろに落暉かな 定年の年までいくつ果樹植うる 石口 光子 菱餅や個性それぞれ三姉妹 雪囲ストーブ列車斜めに見 一草を摘んで七種揃いけり 関 千恵子 初雀いつもの通り来るテラス スイートピー活け小振りなる七宝展 凩や昼月半ばちぎれたる 白石 菊代 踏み出しし赤き指先初稽古 枯木立枝の先まで意志のあり 水がきれいに山越してくる寒気かな 木檜 和久 階段に人の声して雪の夜 舞う雪に木々の様子を見てゐたり 寝釈迦さま手枕うつゝ格子堂 旭 じゅん 鴬の半端に鳴いて里の山 春ざれや等間隔に土竜塚 ひまごともかくれんぼある雪柳 笹川儀三郎 うららかに西へ向けとか老の杖 野火を逃げ瑠璃の向うは四川風 電線のふくら雀や竹騒ぐ 村田紀久子 あれこれと一人芝居を冬帽子 石塔の雪を払いて子に戻る 田崎十三子 お年玉握りて寝入る青い空 外浜の七重八重浜初茜 江川 邑節 疎開っ子の雪囲なく鬢香の母 豊年を草鞋が結ぶ浅草寺 原田多磨子 皇后が護衛官を詠み春の雪 侘助のかじかみている春の雪 森田 泰子 仏前に菱餅を供えいまむかし 白樺の苗木植うるや丘の上 三宅 優子 母が着し娘にも着せたい春袷 |
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