鴎 2001年1月  鴎俳句会へ

鴎 作 品       選評 松田ひろむ
髪黒きとも卒寿の母の開戦日    古川 塔子
茸飯の焦げ目ほどよき大家族
夫婦とて言葉を選ぶ衣被
本郷を素通りしたる一葉忌
舟杭の朽ちはじめたり青木の実
小児科医風邪診たあとの指相撲    小平  湖
新聞は斜め縦横吊るし柿
地蔵路地の出るに出られぬ大銀杏
後出しの一本締めや石蕗の花
大根引ごつごつ生きて折り返し
枯芝や金の茶壷の二坪ほど      石口 光子
とびろくや堀割の鯉肥え過ぎて
八つ裂きの松茸料理旅終る
白菜やつむじ二つの赤ん坊
塔子さん―十二月八日開戦日は、母へと重なる。「髪黒き」として独自の一句となった。「夫婦とて」は、日常の実感だろうが、衣被とあいまって詩情があざやか。「本郷」の句はさりげないが、樋口一葉に寄せる思いの句。「素通り」がその思い。
湖さん―「小児科医」の句は「指相撲」とあいまって、やや出来すぎている感じもなくもないがそんな医師がいて欲しいのだろう。「地蔵路地」は佃島の天台地蔵の銀杏。いつもだれもが見ていて「出るに出られぬ」とは気がつかなかった。感銘の一句。
光子さん―旅吟が多いものの、素直な感動が快い。「金の茶壷」は秀吉のそれだろうか。二坪ときちんと把握して一句となった。「八つ裂き」の句も松茸を「八つ裂き」と言われるとなるほどと思える。俳句はやはりその人なりの把握こそが命なのだ。
天気予報の晴・晴マーク冬トマト   能美 澄江
木枯に白紙の便り託します
雪吊りにひと撥入れて人恋し
水音の細さを拾う鴨の足
夜長の灯島に一校一寺無医     松浦  釉
予後検診今日の落葉の嵩を踏み
今は浜今は山中枯野径
風邪の子に啼かす影絵の化け狐
飛び石の三角四角紅葉寺      石口  栄
日向ぼこ一抜け二抜け影連れて
シクラメンを鏡に増やす理髪店
体内時計遅れがちなる冬寝床
澄江さん―今月の作品は特に情感が豊かだった。「天気予報」の句は、「冬トマト」との対比で明るい。「雪吊り」も「撥」を入れるとはと感心させられた。「人恋し」の直情もこれならば肯ける。
釉さん―「夜長」の句、「島に一校一寺」は、あるとしても「無医」と言い切ってきりっとした一句となった。つづく「予後検診」もさりげないが、自身の思いだけに情が響く。「今は浜」や「影絵」など郷愁の世界に誘い込まれる。影絵は著名な「風邪の子のなぞなぞ遊びきりもなや」に匹敵する。
栄さん―このところ俳句を「作る」面白さに目覚めたようだ。「飛び石の三角四角」や「一抜け二抜け」など、いずれもそうした「作る」工夫が見えているものの、それも努力の一過程として、いまはあたたかく見ていたい。圧倒的に女性優位の「鴎」のなかでの男性代表として大いに期待したい。「シクラメン」の句は景が新鮮に見えて清々しい。
公園の鳩のそら鳴き息白し      大村 恭子
寒晴や口さびしさの飴細り
富士見坂街細長く河豚鍋屋
冬の雨天にクレーンの首休め
リーダー五歳秋の山連れ魔女つれて 堀越 鈴子
笑み栗や脳細胞と歯を無くす
大根焚ことりふつりと母のこと
樹木医の癌告知など神の留守
もみじ季の薬袋に書く一句    小高 沙羅
四季のない町へ紅葉を同封す
「よろしくね」父を始めに賀状書く
虎落笛米一合のふっくらと     姉崎 蕗子
蕪煮えあら朝刊の大きな字
むささびや右脳疲れの昨日今日
恭子さん―「寒晴や」は「飴細り」と感じて現実の句となった。原句上五は「冬ざれ」だったが、ここは明るくしたいところだけに、「寒晴」と手を入れてみた。
鈴子さん―いつも元気な子供が登場する。その生活に素直な感性に共感できる。その「リーダー五歳」が、「魔女」を連れているとは、どのようにも連想が広がって楽しい。
次の「脳細胞と歯を無くす」は、悲しいが「笑み栗」が出てくると、これは観念するしかない現実と納得させられる。
沙羅さん―生活感がやや薄いと感じていたものの、今月の句はさりげなく生活の詩となっている。「よろしくね」の句のように、繰り返しお父さんが登場していたが、最近お亡くなりになったという。哀悼。
蕗子さん―「虎落笛」は、虎落笛の寒さと「一合の米」に孤独感がやや重なるものの、さすがに「ふっくら」として明るくなった。「蕪煮え」は「あら朝刊」の「あら」としてなんとも楽しい句。
撥ね柚子の個性の二十湯に浮かぶ  菊池 志乃
枯芝や点字読む指小妖精
たたら踏む句境しらじら来る年へ
婚終る芋粥ならば吹きこぼれ   倉本  岬
おたふくの眉講釈もおとり鷲さま
丸文字の似たもの同士秋の婚
佃小橋手摺の冷えと雲の影     白石みずき
落葉踏む今朝の占い「恋実る」
奉行所跡和食「北町」冬灯
じゃれあって変声期の声冬薔薇  工藤眞智子
子の声の乾きし電話花八ツ手
柿点々老園長の目覚めどき
メランジャや衛兵真似る二歳の児  澤柳たか子
(メランジャは蜜柑のこと)
合歓の実は錆びたナイフよギリシャ路地
スフィンクスの鼻欠けて笑むコーラ売り
カーテンを開き冬空ひろげけり   関 千恵子
海広げ吹きさらされて石蕗の花
のぞかせてもらうアングル冬紅葉
絵馬の灰もんどり打って終天神   谷  雪野
煮えたぎる茶室に寄せる餠の客
吸入の湯気に噎せてや母の宵
女子寮の山茶花右や左向く    村田紀久子
羽子板市手締めのなかの迷子かな
流れゆく風と雲のせ山眠る
大綿を二度見る日なり緋のマフラー 杉浦 一枝
木枯や上野のロダンは考える
枯蓮の直線の折れ池のいろ
もう少し朝日のなかに吊るし柿   田崎十三子
富士仰ぐ友の墓標に冬日射す
襟巻の狂言の口真似ており
青ボタン押して横断日の短か   樋脇 康治
朝発ちや枝下り歩む寒鴉
二の酉の人声絶へし飛不動
帰る子の鞄の重き三日かな    旭 じゅん
白鳥の飛び出す様を子が習い
福参り帰りの道の迷いをり
夫婦です新米二合きゅっと研ぎ   武田 采子
山茶花の夕焼空を独り占め
香りごとお鍋にどっとねぎま汁
チェンソーの低音追い来る大枯野  木谷はるか
遅延バス待つ足踏みや黄のマフラー
失語症の裸木なんじゃもんじゃかな
川岸に今日も増えつつ家族鴨    増田よし子
干柿や旧街道の右ひだり
冬うらら海まで二キロ歩こうか
虫食いの葉よりひと筋冬日射し  白石 菊代
軒下に転居の知らせ石蕗の花
折り紙のツリー抱き合う園児たち
イチローと叶姉妹羽子板に     北澤むつみ
幸福を呼ぶ鉢の値が人を呼ぶ
よちよちの子のあと歩く冬鴉
気が通う太極拳の事始め     藤田 城一
悠久のミレニアムなり屠蘇の味
ミレニアム古稀で迎える大晦日
初富士を望む眼鏡は要りません  山本 吟石
初詣まずは身近の鎮守さま
二三枚賀状書き足す三日かな
お互いの本音を味におでん鍋    浅見 みち
「巡回中」落葉舞い込む駐在所
八ツ手咲く狭庭いっぱい世紀末   江川 邑節
「良い年を」「風邪を引くなよ」東京駅
袋田の滝冬めくやネガを見る   三宅 優子
東京の取り立て蕪いただきぬ
考えの尽きたる師走夢ひとつ    大房 隆夫
ゆくりなく五臓六腑の初湯かな 
熟柿とて鳥たちを待つ枝の先    森田 泰子
冬初め菊は大人の頭ほど
「爛蝶」のさわりきわまる夜長かな  岩田きみ江
年の煤まだ払われずもどかしき
春や春無声映画の雷遊に      原田多磨子
医務室に避難の子らの咳こみぬ