鴎 2000年12月
鴎俳句会へ
| 鴎 作 品 選評 松田ひろむ | |
| 頭芋ごろり故事来歴のおぼつかな 菊池 志乃 シャシャシャンシャンおかめ熊手のくる年へ 大祖母の子守ばんてん放し鶏 一葉旧居碑切山椒のうす淡甘し 紅葉酒けんか太棹丹田に 名作の一章二章銀杏散る 白石みずき ぎんなんを数えてむせて神の留守 六十歳シクラメンほど揺れ心地 箒草干さる北斎通い道 掌中のうすみどりなる秋の繭 杉浦 一枝 秋深し一粒ずつの星のいろ 菊人形局の顔を見ておりぬ |
志乃さん―「頭芋」は「頭(とう)の芋」といって酉の市の名物で、八つ頭を蒸したもの。その形の面白さに心ひかれても、「おぼつかな」は、あまり故事来歴には関心がないといったところだろうか。「シャシャシャンシャン」も、手締めをそのまま書いた楽しさ。対象に同化した感動の楽しさ。 みずきさん―「ぎんなん」の句、数えてだけでなく「むせて」で自己に引き付けることが出来た。「六十歳」は自身のことではないだろうが、シクラメンと対比させて考えさせられるものがある。 一枝さん―いずれの句も感動をはからいなく真っ直ぐに詠んですがすがしい。まだ俳句を始められたばかりなので、多くを言う必要はない。「菊人形」の句はよく見ている句。スタートとしては特に肝心なことなのだ。 |
| 黄落や怖きグリムの童話本 あやとりの小指がわたる秋の川 小平 湖 撫で肩の問わず語りや林檎村 大根の重さ青さを描きにけり 手締め聞く熊手の裏のがらんどう 室咲の老医いったり来たりかな 姉崎 蕗子 自転車に冬菜のように児を乗せて 露寒のぐいと引かれてまだ子犬 生誕記念樹いっせいに枯れ佃堀 谷地川の紅葉海まで行くつもり 柴田しげ子 いくたりのルーズソックス落葉道 大根引一本抱きて二年生 水音にゆだね葦叢枯れにけり |
湖さん―「あやとりの」句は、「小指」の背景の子供たちまで連想して実景として明るい。「手締め聞く」は華やかなものの裏を詠んで鋭いが、逆にそうした句は「かつぎ持つ裏は淋しき熊手かな」(阿部みどり女)のように多いので、今後はそれをどう深めるかだろう。 蕗子さん―「室咲の」の句は、単純化してしかも「老医」らしい姿が見えるところが楽しい。切字の「かな」も効果的だ。「露寒」の句は句会では見落としたがこれも姿が見えてくる。「冬菜のように」は、いかにも生活感覚。 しげ子さん―「谷地川」は固有名詞だろうが、それを詮索する必要はない。ここでは「海まで」行く谷地とも読めて、それが一句の広がりとなっていることを理解すればいいのだ。「いくたり」は幾人の意味、現在ではちょっと使われない言葉だが、「ルーズソックス」の少女たちと対比して、そんな言葉もなにか考えさせれるものがある |
| 冬めくやポプリの香に袖通す 工藤眞智子 ピラカンサ前横裏に人住めり 上野動物園にて ひとりぼっち印度林檎とゴリラの眼 地下鉄を出てほっこりの頭の芋 悪役も私の好み菊人形 大村 恭子 葬に行く化粧しており芙蓉の実 仙台堀川の切子のひかり秋日傘 遊びぐせ車窓の刈田暮早し 秋の蝶囲いし手よりミルクの香 松浦 釉 雁わたる墓碑は我が家の三代史 雁の行く手の峠甲斐曇り 榠櫨実の一つの机上微熱の夜 |
眞智子さん―「冬めく」は若々しい感覚。「ピラカンサ」の句は「前横」だけでなく「裏」とまでいって現実感が増した。いかにも庶民的な環境であろうか。「ひとりぼっち」の句も動物園の句としてはなかなかの出来。これも印度林檎とゴリラという取り合わせの面白さ。 恭子さん―「悪役も」の句。「私の好み」とまでいってもいいかどうかだが、これはやはり「悪役」を発見した手柄に尽きる。「遊びぐせ」は、省略が効いているが、ていねいに読まないと理解できないところがある。自身の「遊びぐせ」と「刈田」の労働を対比させているのだろう。 釉さん―「秋の蝶」はていねいな描写の中に情感がしっかりと込められている。「ミルクの香」から幼児を連想することはたやすいが、必ずしもそのように限定する必要はないだろう。すでにベテランの作者だが、今回は「雁の行く手」「榠櫨実」とも少し手を加えてみた。
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| 次の風鉄道草の絮あそぶ 澤柳たか子 自転車や銀杏一本は小鳥籠 抜け道の猫が見ている富有柿 まるめろの素直さ欠けてより好きに 能美 澄江 林檎剥く夫婦の蜜に小刀を 露の窓に日の出ゆるゆる旅占い ようやくに木の葉落ち着く比翼塚 古川 塔子 宅配便の身を持ち崩す柿一つ 電話あとのやさしき余白おんこの実 鴨遠くより水尾ひきて沼の皮膚 石口 栄 黄落や竹一尺の投句箱 小さく畳み大きく被る毛糸帽 吊り橋の揺れるを揺らす秋のなか 増田よし子 芒穂の大海原を描きおり コスモスや一人きりなる深呼吸 新蕎麦の昼餉の五感にぎやかに 堀越 鈴子 十七歳の香水日本史と膝に揺れ 足裏より落葉鼓動と我鼓動 色白の女系四代ざくろの実 小原 良子 ひそやかに鈴聞こえくる檀の実 公園は落葉の舞台新体操 冬時雨とろとろ朝寝するがいい 関 千恵子 侵入の隼人瓜にて一夜漬 行く秋の瀬音でありし芦屋川 ぶどう棚となりは風のレストラン 小高 沙羅 ベランダの春夏秋冬柿落葉 父と生き柱時計の秋の数 つる首の花器の青磁や冬浅し 石口 光子 風あるなしやおしゃべりのねこじゃらし 時雨忌やトロッコの腹見え隠れ 袂絵の秋草ゆれる琴の会 白石 菊代 合掌の瞼の裏の草紅葉 天と地を結んで細き秋の雨 佛飯に一つずつのる栗の艶 松本 末生 杉玉のまだ青々と新走り 星月夜願いごとなどあきらめて 木登りの出来ぬ腕白穴惑い 木谷はるか 霜月や畑の双葉陽に甘え 小春日や家を出るまでなにやかや 垣根越し手渡す柿に葉の彩も 浅見 みち 菰巻きの縄の結びに齢重ね とろろ汁ゆるめの味は夫ひとり 侍女俑の小腰かがめし秋日和 田崎十三子 ゆるゆると白足袋ひかる薪能 小春日やモーニングティ二杯注ぎ 子の喚声落葉の山を蹴り飛ばす 村田紀久子 紅葉狩青空市をまず覗く 鯛焼の餡のたっぷりはぐれ雲 木場跡やいまも来ている冬鴎 旭 じゅん 冬海に憂いを捨てるバカヤロー 田鳧まで来て一声の夕茜 頂戴を覚えし赤子千歳飴 岩田きみ江 蹴り上げしボールいっせい秋の空 木枯しや寄り添う墓に吹き落とす 自然園落葉のシャワー浴びながら 北澤むつみ 捨て猫に行く手阻まれ秋の暮 冬うらら内玄関に声かけて 木檜 和久 冬うらら本の余白を撫でており ぶらり湯に香る欄干柳散る 樋脇 康治 武者窓にコスモス重ね柳生みち 花八手空昏れいろに札所かな 小川 侑子 雨止みて吹かれ上手な枯芒 菊の香や人生目標などなくて 森田 泰子 霧晴れ間蔵王お釜の霧の旅 マンション祭り新酒の並ぶ屋台かな 三宅 優子 秋の空大看板は王将で 冬の雨イヌシデ肌の都庁ビル 江川 邑節 虎落笛無駄ダムノーのシンポジウム 一葉忌いとしきひとの名は夏子 芝原 郁朗 秋雨の一丁行きて戻りけり 足元の桜紅葉も佃いろ 山本 吟石 欄干と水門同じ紅葉いろ 水道の水温かき障子貼る 大野美千代 功成りし別れの葬の菊一輪 菊花展懸崖の枝覗き見る 小林みつ子 |
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