鴎 2000年11月
鴎俳句会へ
| 鴎 作 品 選評 松田ひろむ | |
| 黙々と座して芭蕉の目刺など 大村 恭子 秋の昼翁笑顔に皺三つ 老骨の素足のはしゃぎ湯殿山 たどり来し句碑杉の実の底にかな 糠床のゆるみてきたる秋の茄子 いすの木に空が広がる蛇笏の忌 倉本 岬 集配の終便の来る金木犀 鉄砲玉の猫呼んでみる夕月夜 烏骨鶏鳴く順番を朝の露 鯖味噌煮手順その一嫁姑 金木犀に大樹の相や「おーいお茶」 菊池 志乃 翁みち絵解き二巻を破れ芭蕉 秋日差し伝翁蛙の默し 新松子愚痴ぽろぽろと鯉にかな |
湖さん-「鉄棒に」の句は日常のなかの滑稽。東北の茂吉、おしんなど対象に注ぐ眼もあたたかい。いま好調だが、それもだれよりも努力しているからに違いない。不調を嘆く方は湖さんの句と努力を見習って欲しい。 恭子-芭蕉に寄せる思いが、「目刺」や「笑顔の皺」を発見したのだろう。どの句もしっかりと対象を見つめている。湯殿山の「素足のはしゃぎ」も実感をつかんでいる。 岬さん-「いすの木に」や「鉄砲玉の」など、それぞれ味わい深いが、「鯖味噌煮」の句の「手順その一」のように、実感よりも言葉の面白さに、やや傾斜する傾向がなくもないところが、気になった。 志乃さん-いつもながら饒舌を嫌う俳句で、いっぱいものをいいたいのだ。しかしそれが「愚痴ぽろぽろと」などと開き直ってみられると、それもまた一興なのだ。 |
| 小津安の秋刀魚のいよようまかりき 堀越 鈴子 酒田丸少女の冬帽漕ぎ出だす 曽良と踏む薄き紅葉と神の湯と ゆーらりと古代ガラスの竹の春 三月前母はこの世の障子貼る 工藤眞智子 絹雲や願掛け龍神ねんごろに 診断の花丸秋の深まりぬ メモ板のうずめつくされ鉦叩 鮭・ほっけ干す券売所窓一つ 沢柳たか子 霧襖智恵子の空はまた明日 だだちゃ餠をだだちゃに土産将棋駒(こま)どころ 白萩の門のみ古りし芭蕉庵 |
・鈴子さん-「小津安」は映画監督の小津安二郎のこと。秋刀魚はいかにも小津安で、この句もモノクロの味わいがある。「曽良と踏む」も「薄き紅葉」と捉えて一句となった。 ・眞智子さん-「三月前」など、お母さんを看取った作品は、まとめるともっと深い味わいがあるような気がする。水準を越えた作品。ご自身も「診断の花丸」の句のように、病苦を越えての努力なのだ。 たか子さん―いつも推敲に苦労を重ねているが、今回の句は「鮭・ほっけ」や「霧襖」ともども感動が自然な姿で発露されている。「だだちゃ」は、東北旅行でそれぞれ大受けした言葉。「おじさん」という意味らしいが音感の良さも楽しい。対する「ががちゃ」は嬶(かかあ)の変化と思えるから、「だだちゃ」は亭主の意味でもあろう。なお「駒どころ」だけでは、馬の産地にとられるから、ここはやや無理ながら「将棋駒」に「こま」とルビをふってみた。 |
| ガラス吹く重き男にゐのこづち 村田紀久子 命濃し蔦の葉ざわと傾ぎつつ 枝うつる色鳥絵本に帰りなさい 折り紙の指先細か秋暮るる 天高し深川さまの護摩所留守 姉崎 蕗子 猫の目で深川歩き秋薔薇 撫で牛の目の奥雪の湯殿山 秋草や芭蕉の軽み探すとも 白石みずき 大南瓜叩いて撫でて旅終る 菊薫る銀幕の恋まだ続き 天高しうしろ向きにて招き猫 小高 沙羅 ていねいに八つ切りの柿新家族 絵手紙の庄内柿のごまの数 |
紀久子さん-最初の句は「熱き」を「重き」に添削させていただいた。この一連ではなんといっても「枝うつる」であろう。「絵本に帰りなさい」といって、その色彩が鮮やかに見えるところが素晴らしい。今年からの参加者のなかで、力を発揮してきたひとり。 |
| 安楽死論ずる誰も息白し 吉川 郁美 枯葉拾ういのちの重さ量るごと 日向ぼこ眠れば永遠に覚めぬやも 宇宙まで糸瓜の蔓の手探りに 古川 塔子 しじみ蝶水の匂いをかぎまわる 掌のなかの過去や未来や水蜜桃 カラフルな案山子解散協議中 木谷はるか 大くしゃみ背高泡立草揺らす つくづくと陽を溜む芋がら丸い背よ 御真言ひらがな長し秋暑し 柴田しげ子 出世太鼓三つ叩いて石蕗の花 肩に落つ朴一葉のまだ青し 女子大や月と夜風と老守衛 芝原 郁朗 別れぎわ色なき風の京九条 朝寒や同宿人はすでに発ち 柿を売る瀬音に乗せし飛騨訛 石口 栄 大空へ唐子が飛んで秋祭 賽銭箱を覗いても見る神の留守 集団のなかの単身曼珠沙華 能美 澄江 道路工事の標識かたす後の月 庄内に残る案山子の豆絞り 秋の雨窓開けようか閉めようか 関 千恵子 草むらに栗鼠の歯型の丹波栗 露天の湯みちのくの虫近く鳴く 狛犬の生あくびして神の留守 松本 末生 金木犀小き祠に千社札 守り札揃える巫女や神の留守 円空仏の艶のあるなし一位の実 石口 光子 さし石の五拾五貫目秋日影 頑固おやじいまは少なくむべ郁子熟るる 掌に句集真白き露時雨 木檜 和久 句集掌に紅葉ひろがる一丁目 あとがきに満たされていて秋の夜 調査票抱え家路の十三夜 小原 良子 祭り着の仕立ておろしや時雨来る 子宝を授けたまえよ神無月 ぴんと張る猫の尾の先こぼれ萩 白石 菊代 目覚ましのモーツアルトよ今朝の秋 色づくを拒む一粒巨峰剥く 秋の浜声出して読む普羅の碑誌 旭 じゅん そぞろ寒浄財箱の石造り 秋の海百にひとつの大怒涛 中国旅行 枯園に向く投影にここ旅順 大房 隆夫 畦道に山羊追冬日鞭打って 冬日射す雲の波間にプロペラ機 コスモスやゆっくり曇るはけの道 小川 侑子 相寄りておみくじ結ぶ薄紅葉 絹雲や五五七七とメモの路地 杉浦 一枝 猫といる柿もぐ屋根の傾斜かな 山寺のせせらぎかすむ秋茜 江川 邑節 深川に戦災不動銀杏満つ 縁日の声の重なる吾亦紅 森田 泰子 体不調この季過ぎる芒の穂 辰年の龍が空舞う絹の雲 北澤むつみ 芭蕉庵匂うは萩の赤と白 踏切の手持ち無沙汰の日傘かな 赤沼 美子 色っぽい口紅色の曼珠沙華 天童のお化け南瓜の七・八つ 三宅 優子 大欅山居倉庫を包みおり コスモスの百万本や休耕田 浅見 みち 屋形船ことなく日暮るる障子かな 紅葉狩り光源氏を胸深く 小林みつ子 赤蜻蛉人恋しさの後を追う 番付に俺の名がない敬老日 山本 吟石 敬老日趣味が伸ばしたわが寿命 枯菊に亡父顔似る水浸し 原田多磨子 空白の句帳を煽る籾殻火 |
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