鴎 2000年9月
鴎俳句会へ
長月抄 山中蛍火
閻魔こおろぎなれど癒しの鈴の音
砂浴びる雀は地主韮の花
立ち上がる兎の腹毛秋立つ日
露の地を掻く親子鶏なつかしや 岡崎万寿
草蛍被爆のマリア鼻欠けて
晩学や野辺ゆく友と吾亦紅
猫の客鋳物工場の西日かな
| 鴎 作 品 選評 松田ひろむ | |
| 露天の湯酔芙蓉にもなりきって 白石みずき 滴りや埴輪の腰の揉まれたる 墓参まずは益子の窯のぞく ふさふさと女の過去へ稲光 飽食の犬の夏痩せ古本屋 小平 湖 幼な手につかまっている茄子の牛 道なりに来し江戸見坂蝉時雨 跳ねやすき十個をまぜし零余子飯 合歓咲いて山村留学募集中 関 千恵子 葛の花鯖街道の峠越え 夕闇や浴衣を匂うごとく着て おしろいの花の夕暮れ万歩計 |
・みずきさん―最初の句、大胆に「酔芙蓉にもなりきって」といって豊かな句となった。「埴輪」の句は、古代への眼差しも労働と重なるようで、ものごとの深いところへ思いを深めている。「墓参」の句も、普通は気取りが入って、こうはなかなかいえない。 ・湖さん―どの句も、日常に足がしっかりと据わっている。それも「飽食の犬」の句のように、どこかおかしみと同時に社会への眼も働いている。「零余子飯」はていねいに見ている句だが、ややすでにある表現ともいえよう。 ・千恵子さん―「合歓咲いて」の句は、なんでもないようだが、大ぶりの表現が快い。二句目も「鯖街道」が峠を越えるから面白い。これも地名発見の楽しさ。「おしろいの花」は、少し手をいれたが、情感が溢れるさまが伝わる。 |
| 文珠さんの一打いただく暑気惚け 菊池 志乃 帰省子の西瓜も魚も深井戸に 笹舟の「ほ」の字を流す遠郭公 大暑かなメソポタミア展「目には目を」 夾竹桃その一本の白艶に 松本 末生 原爆忌中学二年の僕がいる 宿浴衣外湯へ渡る橋ひとつ 蓮畳風の機嫌の裏表 唐黍の歯型の真白ろ出羽の山 姉崎 蕗子 暗がりの南部風鈴字呼んで 小児外科叩かれている熱帯魚 復活を信ずることも凌霄花 雑巾縫う少女の素足置き場なし 沢柳たか子 盆僧のお供の茶髪猫よぎる 青瓢九個を軒に二階にも エジプト展メモ取る中学生凉し |
・志乃さん―「文珠さん」の句、「一打いただく」といって自身のこととなった。メソポタミア展は何人かの方が句にしていたが、なかなか、難しいもの。この句は「目には目を」とハンムラビ法典の一句を取って成功した。 ・末生さん―女性優勢の「鴎」の中で、栄さんともどもがんばっていられる。これまではどちらかといえば、既成の俳句の域を出なかったが、今月は「原爆忌」にしろ、「風の機嫌」にしろ、自己の表現が見えてきたようだ。 ・蕗子さん―「小児外科」は、職場俳句だろうがさっぱりとして明るい。「唐黍」の句は中七「歯型真白き」を「歯型の真白ろ」と添削して見た。その違いを考えて欲しい。 ・たか子さん―いつも表現に執着するのだが、それがようやく形になりつつある。「雑巾縫う」は現代の少女の足の長さをいってほほえましい。「青瓢」の句はていねいな写生が情をひろげる。 |
| 父祖の墓背に潮騒とレモンの黄 松浦 釉 昼顔や濡れ身の海女のコンパクト 忌が明けて三日鷺草翔びはじむ 盆過ぎのみんみん蝉が新宿駅 送り火やためらふ魂を馬に乗せ 柴田しげ子 奈良墨の使い始めや秋に入る 香ばしくトーストはねる今朝の秋 原爆忌母似のひとに署名して 郵便受け某日よりの秋思かな 古川 塔子 爪赤くするもすぐ飽き酔芙蓉 ときどきは妻の顔して秋刀魚焼く |
・釉さん―「父祖の墓」「昼顔や」など、どの句も安心して読める。しかし、それに留まらないで新しい表現に挑戦されていることが好ましい。「新宿駅」の句も、必ずしも成功とはいえないまでもその一例であろう。 ・しげ子さん―二月の成増の講座から本格的に俳句を始められたといわれるが、なんとも目ざましい進歩。「送り火」「奈良墨」など、どの句も情感がしっかりとしている。なかでも「奈良墨」は秋の情感がたっぷり。「香ばしく」や「原爆忌」は、このままでは巧みな句とはいえないものの、明るく気持ちいいのだ。 ・塔子さん―彼女もたどたどしさが、すっかり消えた。「郵便受け」も使いづらい「秋思」を巧みに生かしている。大きな進歩だが、逆に主観を強調するところや、「妻の顔して」などの通俗さが出てきたことが気になるが、それも一過程だろう。「爪紅く」の思いは男では判らないものの楽しい句、「飽き」といって大人の句となった。 |
| 夏負けの鍋を焦がしぬ七七忌 工藤眞智子 父に寄す母の骨壷凉しけれ 外出許可空蝉指にからませて 葛の葉の裏返る駅入院日 釣るでなし男の居場所夕焼ける 倉本 岬 四万六千日「しゅわっ」と亡夫と発泡酒 ひと足遅れの墓参に雲の掃かれおり 迎え火やパッチワークの畑の風 荒井まり子 横書きの日記に封す蛍の夜 雷走る金曜午後の「HANAKO」ママ 裏返す梅の一粒土用入 白石 菊代 登校日朝顔の種ふっくらと 頬ばりし梨ほど白き歯の見えて 歯をみがく生家真裏の今年竹 小高 沙羅 夏の霧女性上位は慣れっこに 熟れ桃の皮をつるっと終戦日 弐百円寄進の石碑赤とんぼ 木谷はるか 豊後蝉筑後の蝉の峠かな 秋桜美人湯はしご効く効かぬ 草茫々防空壕の狐花 旭 じゅん 天秤に玉子吊るされ秋日和 ガラス工頬の膨らむ鳩の吹き カシニョール展夏帽子買いたくて 石口 光子 躍りの手アベックを指し櫓指し ハイビスカスの蕊のおしゃべり夕日まで 夏空やくねる車道のV字谷 杉浦 一枝 どんよりと沖行くヨット恋のごと 星凉しビル屋上の露天風呂 新涼や「人間の壁」復刊す 能美 澄江 被爆者の三代の夏もう死ねる 歳時記を閉じるひとこと夜の秋 橋二つ渡る故郷の蝉時雨 増田よし子 枝豆の弾けてみっつ里ごこち ふるさとのなまり尾を引く大花火 ハンカチを広げ畳みぬ花模様 小原 良子 通院の少し坂道百日紅 伐るきらぬ俄庭師の秋暑し 新涼や本山葵にて蕎麦の味 三宅 優子 山清水滾々とありポット置く うたたねの江戸風鈴は鳴り止まず 百日紅二軒の寺の塀に沿ふ 木檜 和久 窓透けて椅子の向きかふ青葉空 炎天や黄色づくめの花ばかり 原爆忌島の地震の二ヶ月目 原田多磨子 短夜や「髪けずる女」を横目にし ラッセラー跳人姉妹の人通り 西瓜叩く地球叩けばどんな音 石口 栄 高層ビルは地球の触覚天の川 天高し寝釈迦の山が立ち上がる 江川 邑節 芒の穂もう玉原の主人公 折り紙の蟹の鋏に切られたる 堀越 鈴子 八十路来る今朝茄子漬の貝のいろ 人形を抱いておさなの星の妻 大村 恭子 夕刊のねじり鉢巻盆休み 二駅を席譲らるる原爆忌 大野美千代 環八の工事進まぬ草いきれ 尼寺の岩たばこ咲く五月闇 赤沼 美子 草笛の音やわらかく誘われて 日盛りや樹海の道を足早に 田崎十三子 舐めてみる笊に残りし梅のいろ ちくちくと胸刺す電話遠花火 小川 侑子 岩清水大河の前に喉ならし 渋柿の音の鈍りに玉の汗 浅見 みち 糊のきく浴衣四角に晩夏かな 盆の月しょう塚の婆格子戸に 小林みつ子 雲海にのり五合目の今朝の秋 同姓の塔婆数本施餓鬼寺 山本 吟石 お施餓鬼や束ねるほどの古塔婆 百円の鉢に流金和金かな 村田紀久子 風鈴のかんざし揺らし走り去る 梧桐の今日の茂りや原爆忌 北澤むつみ 梅雨明けの梅干す指を紅染めて 氷屋の屋号のいまは老夫婦 大房 隆夫 挫折知るような夏日や幻想曲 乙女ごよ泣くな秋風吹かぬ間に 芝原 郁朗 秋めくと思ふ炎のこの都会 |
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