鴎 2000年8月
鴎俳句会へ
| 鴎 作 品 選評 松田ひろむ | |
| 半夏生うしろ手淡き築地川 菊池 志乃 花木槿ベンチも鳩も太穂の眼 青磁貫入汗の男の貌入れて エーデルワイスはもる仲間の七七忌 猫派犬派圏外なりし竹床机 占い師の明日気になるばらの席 小高 沙羅 花パセリ喜怒激しくも聞き役に 蚕豆や待機電力家中に 笛吹川の重石をはずす梅の色 少子高齢梅雨庭に降り校舎の灯 小平 湖 月蝕のどさくさ梅雨を明け渡し FAXをコアラの国へ星まつり おはじきの水いろ遠く山開き |
・志乃さん―最初の二句は太穂先生への想いの句。築地や両国のそこここに太穂先生の眼差しを見ている。「青磁貫入」は青磁の細かなひび、そこに汗の生き様を見ている。「エーデルワイス」は合唱の仲間でもあろうか。「はもる」はハーモニーから来た俗語だが、すでに日常語と考えていい。この句の場合は「はもる」がなければ、なんでもない句。 ・沙羅さん―「占い師」は日常のおかしみ。蚕豆の句もややウイットの句だが、「待機電力」といって夫などの姿が連想されることろが楽しい。 ・湖さん―日常の詩情が豊か。「少子高齢」や「月蝕のどさくさ」のなにげない表現の深さは、学びたいところ。最後の句は太穂先生の「おはじきは今日のそら色芙蓉咲く」を思わせる。 |
| 六月や陶狸の腹も身のうちに 倉本 岬 遠雷や木綿豆腐の水替えて 叱られて紫陽花のいろ少しずつ 百選の滝のひとつを蝶占めて 精神科まず歩きなさい花野まで 堀越 鈴子 午後の疲労花くちなしのなかにいる かけはしの木槿つぼみの百ほども ひまわりの一本反旗ひるがえせ 老鴬の一羽連れ鳴く団地の葬 大村 恭子 絵手紙の大向日葵の筆なめて 朝顔の三つひらきし孫の顔 江戸風鈴忘れてますよ風の道 土用太郎雨つれて来る睡魔来る 沢柳たか子 蛍火やこの川筋の甘きひと はにかみのこうろぎを聞く大暑かな 夏きざす解体新書碑の重し |
・岬さん―彼女も生活派だが、そこはかとないユーモアも出てきた。「陶狸」や「叱られて」の句がそれであろう。「木綿豆腐」も主婦ならではの句で、これらが底辺にあってこそ社会への眼も飛翔する。 ・鈴子さん―「精神科」こうした表現は彼女独特のものであろうが実感にささえられた強さがある。「反旗ひるがえせ」の大胆な表現も鴎の会ではいい相互刺激となっている。 ・恭子さん―「絵手紙」にしても「朝顔の」にしても素直な飾らないことばが生きている。孫俳句も作り尽くしてさらに飛躍するのだろう。「江戸風鈴」にしても「忘れてますよ」の日常語があってこそのもの。 ・たか子さん―「蛍火や」は「この川筋の甘きひと」という省略と飛躍のある言葉と重なって味わい深い。故郷の川への思いでもあるのだ。「土用太郎」も「はにかみ」も詩情のふくらみがいい。器用ではないが着実な歩みが好ましい。 |
| ががんぼの脚月面の深呼吸 荒井まり子 つぶやきぬ昭和日焼けのパナマ帽 ぽっと行く欅青葉の父の恋 あじさいの湖畔や風の詩はじまる 樟若葉親鸞像のくすぐられ 工藤眞智子 母と子の七夕笹の坂のぼる ストレッチ小鳩の鳴ける小暑かな 生国を遠く母病む風媒花 なめくじの跡の迷路や飛行船 古川 塔子 鷺草や母に貼りつく男の子 夏帯をきっちり締めし文庫本 白百合のゆれたる蕊はピアスかな 杉浦 一枝 遠雷や身のあつくなる護身術 ジェット機を見る多摩川の昼顔と |
・まり子さん―「ががんぼ」を見て「月面」という飛躍は楽しい。「パナマ帽」は「父の恋」があって、これも父のことであろうか。その他の大胆な表現も好ましいが、やや作為が目立つところが今後の課題であろう。 ・眞智子さん―「ストレッチ」は体操のことであろう。小鳩と対比させて明るい句。しかし「ストレッチ」は必ずしも体操と定まらないところが苦しい。お母さんを看取った句は、いずれも味わい深いが、今月も「生国を遠く」という措辞を得て一句となった。 ・塔子さん―「なめくじの跡」など、詩的な飛躍を試みているのだろう。「鷺草」は実感、母に張り付いている子もいまは懐しい。 ・一枝さん―「白百合の蕊」をピアスと言い切って若々しい感性が光っている。「遠雷」の句はやや手を入れたが、表現のたどたどしさは今後の課題だが、あまり技巧に走らずに感性のみずみずしさを大切にしたいものだ。 |
| ココナツみやげ割れば一個の夏日記 佐々木らん 雹の来て豆腐一丁空焼きに 麗子像の視線のフォルテ戻り梅雨 ランタナや京菓子色に加賀色に 石口 光子 「しみじみ茶」の空缶の旅青嵐 熟れトマト太陽の涙かも知れぬ 浅草を廻して三社御輿かな 松本 末生 軒つばめ同姓多き漁師町 夜の修羅秘めて鵜川の朝かな 猫の草茂るや雨の横なぐり 姉崎 蕗子 満腹の虫の目を載せ蕗大葉 唐黍のはちきれそうな身をのぞく 朝市の小旗はためく青山河 関 千恵子 熟れどきを知らさるる虫さくらんぼ ででむしや老神の湯に足湯して 昼顔の火の見櫓に背伸びして 増田よし子 「ささかにの径」小道や百の水馬 迷い入る夏蝶のここ「つつじ茶屋」 梅雨の午後夢に入りたる靴の音 白石 菊代 夏の雲龍の姿の西にあり 風鈴の短冊ねじれ嘘ひとつ 真夏日は白し朝の濃茶が好き 能美 澄江 風鈴は朝の機嫌のはひふへほ 宵の風明日なきいまを白木槿 寝不足の尾根百八十度夏がすみ 白石みずき 手の届く雲の真下の滝しぶき バス待ちてとんぼと遊ぶ誕生日 自分史の一片掬う心太 石口 栄 鍵束の音なき一日草むしる 「実はね」と切り出す話ソーダー水 夏野菜それぞれの顔絵手紙に 小川 侑子 睡蓮のいまにも眠るパステル画 岳人のきらきらきらと蜘蛛の糸 留守電の声に答える裸夫 木谷はるか 向日葵の顔の押し合う素焼壷 ポップコーン夜空にはじけ天瓜粉 藻の花の女ベンチに煙草吸ふ 樋脇 康治 夏雲へアシカが跳ねるサンシャイン 仲間旅五時を発たせる油蝉 なんとなく木苺食みし菜種梅雨 武田 采子 湯上りの香りのままに祭りの子 寝転べばひと夏の空はじまりぬ 風筋にみどり子を置く夏座敷 柴田しげ子 からすうり花咲く刻をためにけり 満天に星のきらめく敗戦日 ほろ酔いのしなやかな揺れ夏痩せて 大房 隆夫 師と仰ぐひとのやさしさかき氷 氷屋の屋号のいまは老夫婦 白鷺の孤高動かず?田に 旭 じゅん 健康台昇り降りするとも夜なべ 一帖の花茣蓙を敷く迎え盆 大野美智代 いつか見た同じ景あり山法師 地下壕のハングルの碑に木槿立ち 田崎十三子 サミットの砂浜夏を封じ込め 青柿の昨日も二つ今日も落つ 小原 良子 とりこみし梅干の梅家中に 叱られて小石蹴る子や蛇苺 村田紀久子 蓮池の河童の像や紅日傘 米栂の雫に病むかさるおがせ 江川 邑節 迸れ水芭蕉原薬師沢 山法師船頭唄う最上川 森田 泰子 瀧音を背に聞きながら鳴子峡 徳利椰子腰膨らます夏の波 浅見 みち 沖縄の熱砂握れば指に逃げ 海沿いの天神祭りは花火の輪 三宅 優子 さく井の冷たき水よせせらぎへ 白露の一句生まれて二句消える 原田多磨子 仲良しの七夕笹のなかを行く 老眼のなぜか明るき百日紅 芝原 郁朗 黒焦げて歩く少年原爆忌 湿る夜の梔子のなか酒注ぐ 岩田きみ江 路地裏の朝顔競う丸い顔 |
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