鴎 2000年7月
鴎俳句会へ
文月抄
皆既月蝕 山中蛍火
送り火の燠色うつし皆既蝕
片影伝う浜木綿白き冷えに触れ
粗ら雨に捨て蚕の動くほどの闇
どこか香水駅駆け降りることもなし
えご咲いて 岡崎万寿
えご咲いて被曝の村のままごとよ
裸足の子こっそり青梅かじる音
泡盛の節くれだった指同士
口ぶくむ新茶のまろみ恩師の忌
水 無 月 抄
草笛の少年知らず爆死また 岡崎 万寿
憲法とセピア色して五月のぼく
行く春や娘と九九の練習帳
メーデーのはじけて妻の焼むすび
筍賜る隣家はHBのようなひと
山中 蛍火
牛蛙聞きおり両手より沈む
百年後薫風浴かなんなりと
乳歯なれや胡瓜食みいる音こまか
| 鴎 作 品 選評 松田ひろむ | |
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しがらみのあればあったでえごの花 倉本 岬 箱根うつぎつづきに親と兄弟と 捨て猫の生後の手足ばら匂う 夏草背丈外人墓地の真昼かな 五百羅漢の千の福耳梅雨に入る 石口 栄 万緑や川は地球の毛細管 対岸のビルに飛火の大夕焼 「嘘・ほんと」少女言葉の肩凉し みつ豆や「少年法」とは栞挿す 白石みずき 耳遠きふたりの会話袋掛 イーゼルに「ちひろ」と薄く芹の花 今の世のはじける柘榴十七歳 |
・岬さん―「しがらみ」の句、やや危うい感じもあるが、面白さだけでなく「えごの花」が渋く一句を支えている。次の句もしがらみだろうか「箱根うつぎ」の繁みのなかに父や兄弟を見つめている。 ・栄さん―いろいろと大胆な取組みをしているが、「川は地球の毛細管」といわれれば、感心せざるをえない。どこか突き抜けた表現を得たというべきだろう。「五百羅漢」は福耳を発見して成功した。「少女言葉」なども、もうよくある素材だろうが「肩凉し」と、丁寧に表現したところに好感が持てる。 ・みずきさん―これまでになく生活感が、身辺の素材から漂う。なかでも「耳遠き」は情景が鮮明でかつ現在の農のありようまで、考えさせられる深みを持っている。「少年法」素材の積極的だけでなく「みつ豆」でしっかりとした現実となった。 |
| 里山を映し早乙女待つばかり 菊池 志乃 耕耘機薄暮ひきずりつつ止る ばら薫る青衣マリアの裾の罅 蝶浄土くらくらテキーラのパンチかな 朴の葉に餡たっぷりは柏餅 佐々木らん あじさいの朝ドラマの子に惚れて 麦がら焼くへのへの文字の目が勝気 十薬の花満つ猫の目の翡翠 方言に戻りし看取り夕薄暑 工藤眞智子 退院のかなわぬ母に梅漬け期 バラの香の傘まで入りぬ母病む日 水神様の昼花火ポン母病床 青梅の産毛兄弟疎くなる 荒井まり子 ケニヤ太鼓頭上に満ちて青梅 母の日のブラウス転居先不明 |
・志乃さん―「早乙女」の句は、さっぱりとしてこれまでの句を一歩出た。俳句は単純化必至ということなのだが、溢れるほどいいたいことがあることも大切、それをいかに鎮めるかなのだ。「耕耘機」も一句に確かな存在感がある。 ・らんさん―大胆といえば彼女もそうだが、興味のありようが独自なところが非凡。それが「朴の葉」と「柏餅」、「十薬の花」と「猫の目の翡翠」などに感じられる。それにしては「ドラマの娘」などはもう一歩だろう。 ・眞智子さん―お母さんの最後を看取った感慨が、素直に描かれて味わい深い。「梅漬け期」「昼花火」などは、句の表面の悲しみを越えたある明るさがあり、それは充足したお母さんの人生を見ているのでもあろう。 ・まり子さん―「鴎」の作品は、みな個性的といわれるが、彼女の作品もそのひとつ。これまでの大きな揺れが、どことなく確かな姿を得てきたようだ。「青梅の産毛」など実感、共感。 |
| 俗生にのびし筍だれのもの 木谷はるか 干し竿にとどかぬ齢ひきがえる 万緑のゆさと溢れる高速路 点眼に梅雨晴空のしみにけり 木檜 和久 ベランダに降る雨雫詩人の訃 夏の蝶家族連れにもひとりにも 七福神の汚れそれぞれ青葉騒 沢柳たか子 未央柳真珠の涙雄蘂にも 仙人掌の花若者のあいまい語 夕餉にはさよりにしんに化粧塩 赤沼 美子 大仏にひと雨ありし夏衣 柿の花庭いっぱいにおちょぼ口 |
・はるかさん―和子さんから改名。若々しい俳号はめでたい。いつも一句にやや理があるところが気になるが、今回は「筍」や「ひきがえる」がある像を結ぶ。 ・和久さん―鴎の会では新登場だが、すでに一定の活躍をされた方だろう。「点眼」は実感の句だが、「梅雨晴れ空」と大きくとらえて成功した。「夏の蝶」の句は最後に「ひとりにも」として一句が締まった。「詩人の訃」もベランダに振る雨で都会の生活感が表現されている。 ・たか子さん―俳句では明暗、濃淡の取り合せが大切だが、今回は「七福神」と「汚れ」のように、それが姿を持ってしっかりと書き留められている。ようやく表現上のたどたどしさが消えてきた。 ・美子さん―俳句を始まられて日時が浅いと思われるものの、「夕餉には」の句のように、生活が素直に、しかもある詩的飛躍を持ってとらえられている。 ・湖さん―「子豚の」はなんとも楽しい句。 |
| 蒙古斑子豚のなりの素っ裸 小平 湖 水甕の底の夏空文庫本 水中花の青き花芯に嘘ひとつ ハイビスカス胸高に揺れ回復期 噴水口の十個の加減風日和 古川 塔子 梅雨の駅コインの匂い掌に染みて 午後九時は約束のとき金魚玉 串削る名人といる鮎の宿 松本 末生 昼灯す宿せせらぎに夏料理 特急のシートを倒す花疲れ 少年のえんどうの花一つ咲く 堀越 鈴子 握り飯ほうばる笑う山目前 落葉松の芽吹きと乗りし小諸行き 睡蓮のわれ近寄れぬ重さかな 能美 澄江 巻尺のすっきり伸びる夏つばめ 来るたびに迷う道なり桜桃忌 母のメモほどに彩出ぬ梅漬ける 松浦 釉 うたた寝の冷え伝えくる梅雨畳 派出所の留守に首振る扇風機 好き嫌い花弁をちぎる光琳忌 大村 恭子 雨の日はクロード・モネの白日傘 菖蒲園小さな画伯胡座して 青梅雨やからくり人形定刻に 柴田しげ子 夏の月ひとりずつ出てと外に揃ひ 茗荷の子今朝摘みごろよ下駄を履く 一粒の種に始まる定年後 小高 沙羅 あじさいを見に来たつもり猿の芸 梅雨寒の登山靴ある露天風呂 鬼百合の風の行方に逆らわず 石口 光子 番犬に一喝されて羽抜鳥 晩婚があっさり決まり花茄子 白南風や腸までも快気酒 江川 邑節 青岬大謀浮の凪の面 元気でね子あればこそカーネーション 女坂躊躇いもなき汗の顔 小川 侑子 存分に梅の実の熟れ無人駅 パン焼ける香りのとどく梅雨の窓 時の日の形見の時計響きおり 田崎十三子 春蝉に誘われてきし無言館 傘の列燕子花図は黄金色 いつのまに競り合う仲なの花菖蒲 関 千恵子 梅雨冷えやパソコン通信まだつづく 露天湯のバラの一面梅雨晴間 夜勤の荷梅雨の座席を譲らるる 姉崎 蕗子 茄子の花犬が曳き行く五十肩 夏靴の五指の不揃い投票日 更衣麻の葉模様また畳む 白石 菊代 ページ繰る音に今日あり桜桃忌 公園に居付きし猫や梅雨に入る 夏桑も札所めぐりも景色かな 杉浦 一枝 立ちつくし部屋は大きな蟻の列 消して行く百合のあしゃべり雨の音 小原 良子 梅雨寒やエプロンの袖通しけり 巴旦杏少女の口を出入りして 芝原 郁朗 大磯の浜に泣きいる一人盆 ひいひいと口突き出せば新生姜 岩田きみ江 白足袋の馴染みがそろう町祭り かるの子の泳ぎ上手に一列に 増田よし子 朝顔の向かいの家を見て咲きぬ みどり児の頬に似ていて枇杷ふたつ 村田紀久子 花菖蒲見知らぬ人と会釈して 言いあいて風鈴いつか静かなり 北澤むつみ 五月雨や狐火かざし姫の像 武子歌碑誰が掃くよう夏落葉 山本 吟石 ここも緑陰親鸞像の顔暗し 柱時計の梅雨めく音や一膳飯 大房 隆夫 眼のなかに美女置く夏の盛りかな 風薫る開智学校大ポプラ 三宅 優子 夏の日の魁夷ギャラリー白馬の絵 寅さん像更衣とて帝釈天 大野美智代 「大五郎」と名付けし車初夏の雲 立ち眩み鰻飯食う夏至の膳 原田多磨子 夏風の介護サービス頭打ち よち歩き尻突き出して梅雨晴間 浅見 みち 梅雨晴の選挙高まる白帽子 闘牛に見入る片手のラムネ瓶 小林みつ子 梅雨晴れの傘の花咲く両隣り ぽきっと折り菖蒲の香り立つ湯舟 広井 久子 ジャスミンの香りひろがる朝の風 |
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