鴎 2000年6月  鴎俳句会へ

水 無 月 抄

草笛の少年知らず爆死また           岡崎 万寿

憲法とセピア色して五月のぼく

行く春や娘と九九の練習帳

メーデーのはじけて妻の焼むすび

筍賜る隣家はHBのようなひと          山中 蛍火

牛蛙聞きおり両手より沈む

百年後薫風浴かなんなりと

乳歯なれや胡瓜食みいる音こまか

鴎 作 品       選評 松田ひろむ
巣燕やカーネルおじさん抱かれゆく 姉崎 蕗子
パンジーの首傾げたる選挙前
蕨折る少年法のひとつずつ
でで虫の跡ひく光り介護法

落椿踏めばこの恋おわりそう    倉本  岬
四五枚の田の早苗どき七七忌
奪衣婆の口元ゆるぶ百千鳥
純粋の乳吸う音も五月かな

すみれ百一つを胸に山下る     堀越 鈴子
都忘れ買う山行の切符買う
十七歳アンネ・フランク薔薇の咲く
熟女らの不思議大好き青嶺越す
・蕗子さん―「巣燕」の句は、ケンタッキーフライドチキンの人形だが、こんなにも楽しい句になるとは。他の「選挙前」「少年法」「介護法」など、はっきりと社会に開かれた眼があたたかい。なかでも「蕨折る」は、姿も見えつつ、少年法問題の本質を考えさせる。
・岬さん―「四五枚の」句は、いうまでもなく太穂先生の「怒涛まで四五枚の田が冬の旅」を踏まえつつ、それを早苗時として、深くしかも明るく自身の問題としている。「純粋の」句は、初孫を得た喜びだろうが、単なる孫俳句を超える思いがこめられている。
・鈴子さん―彼女のテーマの一つは、「山行」だろう。いずれも花との対比で明るい。考えさせられるのは、「十七歳アンネ・フランク」の句だろう。いま日本社会の矛盾が集中している十七歳、かのアンネも十七歳。

ヘリコプター小雀箱を登り下り   古川 塔子
ふらここを押され始まる胸騒ぎ
桜桃忌うさぎと亀の亀が好き
胸突き坂の下りの一歩昼の月

作務僧のつむじが二つ花牛蒡    菊池 志乃
しかん只管たざ打坐遠のいてゆく雨蛙
片言のげんげ田遊び持ち帰る
蚕豆やいつも末席魚座です

踏んばってたっちの出来る端午かな  松本 末生
風はらむまま降ろさるる鯉のぼり
若草やあんよ上手のよく転ぶ

大仏の胎内におり夏木立       赤沼 美子
こぶとりの鯉まだえさをねだりおり
ひじき入りがんも含め煮なかなかに
・塔子さん―「ふらここ」の句など、このところ主情を鮮明に打ち出す方向が見えてきた。これは子規、虚子以来の「客観写生」の道とは異なるが、これも現代俳句。最初のヘリコプターと小雀の対比はしっかりした写生。
・志乃さん―「作務僧」の句は、原句「作務小僧」だったが、ここは小僧といわないほうが広がりが出る。「只管打坐」は、ただひたすら座禅すること。特に曹洞宗でいう言葉。仏教用語に造詣の深い彼女らしい言葉。「遠のいてゆく」は実感だから味があるのだろう。
・末生さん―「たっち」「こいのぼり」などおそらくはお孫さんの句だろうか三句とも明るくまとまっている。なかでも「風はらむ」はしっかりした景をとらえて一句となった。
・美子さんー「大仏の胎内」は、そのことの面白さ。「こぶとりの鯉」もおかしみ。日常のなんとないおかしみをとらえて明るい。
帰るコールもう花豆の煮えるころ    小高 沙羅
万緑や「松の廊下」は直角に 
うぐいすの鳴きまね風の美味きこと

痩せた娘の痩せた乳房や花山葵    白石みずき
「おやすみ」の霞草ほど酔い心地
巣鴨通り開運ふりかけ買って夏

風光るペタル漕ぐ背に翼見ゆ     田崎十三子
二胡の音の「かあさんのうた」花の雨
美しき距離保ちたる春の宵

四肢伸ばす小亀の岸辺藤垂るる    白石 菊代
風みどり透明人間になっている
池底の空呑み込んで藤の波

バラの上形態記憶シャツ乾く     木谷 和子
二万歩を歩きげんげ田ひとりじめ
簪の藤ひとゆれのおいでやす

・沙羅さん―「帰るコール」など、日常がしっかりととらえられている。「うぐいすの鳴きまね」は、やや言葉の多さを整理して見た。
・みずきさん―「痩せた娘」は過度のダイエットを見つめているのだろう。「おやすみ」の句もややアンニュイな生活感がただよう。
今回カタカナ用語がないことも工夫だろう。
・十三子さん―二胡は、普通にいう胡弓のこと。中国の用語だが、それがわかって味わい深い。「美しき距離」は鮮やかな句だが、先行句があるので、今後は要注意だろうか。
・菊代さん―「四肢伸ばす」はていねいな写生。二句目のように「透明人間」も大胆だが、その気持ちが読者に素直に入ってくる句。
・和子さん―俳句もどんどん新しい言葉が出てくる「形態記憶」もそのひとつだが、生活のなかで、それを生かして明るい。「二万歩」もおそらくは人がいなかったということだろうが、このように「ひとりじめ」と言い切って楽しい。

きんぴらのぱりぱり子猫闇のなか  小平 湖
吉良饅頭へ目が跳びつきし街薄暑
春おぼろ男美容師黒づくめ
孫と娘と婆と丸顔豆御飯     大村 恭子
青空に曇る少年桐の花
十薬の十字明るく越境す
川幅をせばめ絡みし鯉幟     浅見 みち
肩ずれる祭半纏犬も着て
蜆汁閉じる一つや反抗期
立夏ですわたし毛染めのタイムベル 佐々木らん
「癒し」売る路上詩人や夏めける
伊勢えびに手首叩かる聖五月
刈り込みし桧葉の木夏は男前   杉浦 一枝
雲映す干潟現われ夏模様
知らぬ駅来たような駅ビルの靄
雨上がる美しき距離山法師    木檜 和久
路地裏のアカシアの空青かりき
夏の蝶木にぶら下がる木の名札
このままがいいこのままのいちご食む 石口 光子
牡丹園番傘ひろげ香ひろげ
酒の名は「女泣かせ」や花魁草
麦黄ばむ空へインコを捜しています 藤井 博子
変調の木菟に思わず振り仰ぐ
母の日や二世代という鏡とて
面童女叔母逝く風は花みかん   工藤眞智子
礼状をポストに日傘ひとまわし
贈られし句集の栞朝凉し
鳥の声聞き分けている夏帽子   関 千恵子
あした待つ蕾のおじぎ芥子の花
滝飛沫葉の新緑をやさしくす
葉桜に男ゆっくり女坂      樋脇 康治
遊覧船に誘ふマイクや春時雨
ただ眠く五月の昼の映画館
輪のなかへ山吹散りし昼の飯    小川 侑子
春の午後寂聴講話合掌す
雨の昼はやりの紅を柏餅
糸蚯蚓二十日大根引く少女    沢柳たか子
少女の手借りて岩越ゆ五月晴
少女にはつばなが甘き薬草園
こいのぼり都を指して泳ぎけり   柴田しげ子
こいのぼり神官袖を背に結び
藤棚に先客のあり昼下がり
武者人形の萌葱芦する朱面の鷭  江川 邑節
玉堂の長瀞なべてえごの花
花水木「レプラ」の醜のレリーフが
箱根山青葉若葉の交響楽     明井 純男
湯煙りの猿群れいたり宿浴衣
パソコンの魔法を使う雲の峰
この椅子に先生見えぬ雑草忌   山本 吟石
枇杷たわわ夢道の姿見えなくも
たんぽぽの花消えにけりくつわ句碑
春来るなにがなんでも途中下車  中里 瑞乎
じっと見る芽吹きと滝と描きたくて
独酌の夕日に染まる青すだれ   大房 隆夫
励めよと太穂の遺影冷し酒
湯加減の猿の親子や風薫る    森田 泰子
夏よもぎ休憩バスの客が摘む
散歩とて遅日の上着脱いでゆく   芝原 郁朗
藪椿燃えて燃えしが人知らず
荒川の蓬の太さ肩車       村田紀久子
瞠りいる濃山吹の金屏風
夕つばめ縦横無尽我の前     増田よし子
目の前のたんぽぽの絮風まかせ
蜜蜂のくびれて細き花の上     岩田きみ江
命日を指折り数う五月かな
廻る廻る赤ちゃん寺のかざぐるま  北澤むつみ
薫風に誘われてくる自然園
風薫る記念植樹は白樺だ     三宅 優子
お茶のお礼ひとことという長電話
居酒屋の神夏めきぬ暖簾新ら 小林みつ子
葉桜と蓮と並びてホームレス